Il legno di sandalo che si innamora di vaniglia | ナノ







「岸野っち、お疲れーッス。通知表どうだった?」

「えー、ぼちぼちかなぁ…可もなく不可もない感じ。でも確実に黄瀬君よりは良かったとは思う。」

「ちょ、なんスか…その俺が成績悪い前提みたいな言い方!!」

「だって黄瀬君、中間も期末もだいたいの教科が赤点スレスレだったじゃん。」

「うっ…!で、でも現国!!現国の漢字は半分以上合ってたッス!凄くない?!」

「それは…うーん、普通かな。」

「ヒドイッ!!」


二学期最後の日。

終業式を終えて、大掃除して、通知表貰ったり休み中の諸注意諸々聞いて、そしてやっと帰り支度を始めたところで斜め前に座る黄瀬君から声をかけられた。

成績の話なんて珍しい…と思ったが、やっぱり彼が言いたいことの本題は違ったようで。「ま、まあそんなことはどうでも良くて!ちょっとお願いがあるんス!」と妙に改まった感じで、「冬休みはどっか旅行行ったりとかする?」と言葉を続けた。


「旅行は流石に無いなぁ。まあ大晦日から三が日はおばあちゃんち行くよ。後はちょっと遊びに行くとかくらい。」

「じゃ、予定がギッチリ詰まって隙がないなんてことはないってことっスよね?」

「まぁ、確かにそーなるかなぁ…」


そう答えると、黄瀬君は嬉しそうに「良かったッス!じゃあコレッ!!受け取って!」と、突然あたしに何やら紙を握らせた。見れば、ウィンターカップ準々決勝入場券と書かれたチケットが2枚。


「これ、もしかして終業式の時にバスケ部のキャプテンさんが良い結果が残せるよう精一杯頑張りますって言ってた試合の、?」

「そー!ウィンターカップって言って、まあ簡単に言えば冬版インハイってとこッスかね。夏と同様、規模もデカイしみんな気合入ってるんスよ!」


岸野っち、前にバスケの試合見てみたいって言ってたじゃないスか!!だから絶対良いと思って!と、強気に言われれば、おおぅ…そういえばなんかそんなようなことを言ったような気になってくる。が、記憶は残念ながら曖昧だ。


「でもあたし、どっちに点が入ったかくらいしかわかんないよ?」

「それだけ分かれば大丈夫ッスよ。気軽に応援しに来て欲しいッス。それにウィンターカップのプレー、派手なの多いから細かいことわかんなくても楽しめるって!」


正直、ルールよくわかんないまま行くのは選手の人達に失礼な気もするけど、「だから、ねっ!!!ねっ?!」と、ほんともうここまで強く言われて断る理由は特にない。

確かにバスケにはちょっと興味あるわけだし。
少し考えた後「折角だから見に行くよ」と答えれば、黄瀬くんは心底安心したような表情で「ありがとうッス!岸野っち本当にありがとうッス!!」と、チケットを持ったままのあたしの手をギュッと握ったかと思えば、上下にブンブン振ってきた。どうしたの。なんでそんなテンション高いの。


「いや、うん、どういたしましてなのかな…でも、手はその、えーっと」


ちょっと離してほしいというか、なんというか。

あたしからしたら黄瀬君は巨人なので、そんなのに手を強く握られたら普通に痛い。てゆうかそれより、男子に手を握られるなんてそうそうないので、なんか照れる。
とりあえず苦笑いでそう言えば黄瀬君は慌てて手を離してくれた。


「アーッ!ゴメン!いや、ちょっとホッとして…勢いあまっちゃったッス。」

「あ、いや大丈夫。こっちこそなんかゴメン…チケット本当ありがとね。誰か誘ってくよ。」

「うん!楽しみにしてるッス!応援よろしく!」


そして、黄瀬君は「あ、ヤバッ!俺部活行くッス!海常出る試合とかはまたメールするね!」と、バタバタ音を立てて慌ただしく教室を出ていったわけだが、うーん…、イケメン。

中高ずっと一緒だし、見慣れたもんだとはいえ、流石はキセリョ。恥ずかしいくらいのキラキラスマイルだった。
試合中、キャーキャー騒がれるのかな、やっぱり。なんて、そんなことを思いながらあたしはカバンに教科書を詰めるのを再開した。

…が、それからすぐ。勢いよくドアが開くと、見慣れた顔の友人が息を切らして教室に入ってくるなり「ちょっと黄瀬君!あれっ?!黄瀬君、もしかしてもう帰った?!」と叫んだ。何事かと思って話をきけば、今日黄瀬君、日直だったらしい。


「あー…さっきあさみと喋った後、慌てて教室出てったよね。」

「うん、部活行ったよ。なんか遅刻ギリギリみたいだったしだいぶ急いでた。」

「うっそ、マジで?!最悪…ッ!黄瀬君の書いた日誌、テキトー過ぎてアウトって書き直し命令出たんだけど!ホンットあの顔だけポンコツ!」

「え、そこまで?見せて見せてー。…うっわ、てゆうか時間割すら書いてないじゃん。」

「あー…。」


友人から見せられた日誌には、とりあえず日付と天気は書いてあるものの、時間割の欄は空白。コメント欄は、良いお年を!来年も頑貼ります。と辛うじて読める字が。これは普通に酷い。

ちなみに友人がこの後。
キレ気味で「だから黄瀬君と日直やなんだよ!」と言いながら日誌を丁寧に書き直して、やっぱりぶつぶつ文句を言いながら職員室に日誌を出しにいったのは、まあ当然だと思う。

…ていうか黄瀬君、がんばるの「はる」は「貼る」じゃなくて「張る」のほうだよ。
彼は本当に大丈夫なんだろうか。

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