Il legno di sandalo che si innamora di vaniglia | ナノ







昔々…実際のところ、そんなには遠くない小学生だった頃までの話。
あたしには、仲の良い男の子がいた。

我が家の斜め向かいに昔ながらの2階立てのアパート。そこの一番右端の…、207号室には灰崎さんというお宅があり、仲良しだった彼はそこの息子さんだ。名前は、祥吾君と言う。

当時、あたしは祥吾君を祥ちゃんと呼び、一方で、彼はあたしのことをあさみと呼んでいた。

祥ちゃんちのお母さんは、看護師さんでとても忙しい人だから夜勤とかで夜お家に居ない事も多かった。だから、祥ちゃんはよくうちに晩ご飯食べにきてたし、夏休みのラジオ体操とか、町内の餅つき大会とか、あと近所の商店街でお祭りとかに行くのは必ず2人一緒だった。
また、うちは美容院をやっていて、祥ちゃんも祥ちゃんのお母さんも馴染み深い常連さんでもあった。祥ちゃんは当時、あたしにとっては恐らく一番身近な友達だった。

そんな大切な友達には違いない祥ちゃんだけど、彼はとても気が短くって、喧嘩っぱやくて、我儘だった。幼稚園でも小学校でも、彼はいつでもいじめっ子だ。いや…ガキ大将っていったほうが良いのかもしれない。

自分が苛めるのは良いけど、人が苛めてるのは許せないから、自分以外のいじめっ子は片っ端からやっつけていく。そんな彼は、いじめられっ子にとって恐怖の対象でありながら実はその一方でいじめる人を蹴散らす正義のヒーローでもあったのだ。

それに、祥ちゃんはとにかく運動神経が良かった。やったことないことでも、一度見れば元々やってた人よりもずっと上手くこなしてしまうという凄い特技を持ってた。特にバスケは上手で一度シュートを入れるところを見せてもらった時はあたしもすごく興奮した。

小学生の時、注目を浴びて女子に騒がれる男子といえば運動は苦手だけど勉強が出来る子より勉強嫌いの運動が出来る子のほうがモテたし、祥ちゃんは後者の典型例だったと思う。
背も高かったし、かっこいいから凄く人気があった。かく言うあたしも初恋は祥ちゃんだった。

ただ、初恋は実らないとはよく言ったもので。
あたしの初恋もこの昔ながらの定説通り残念なことになってしまった。

祥ちゃんが好きなんだと気付いた時は小学6年生の時で、その頃はちょうど祥ちゃんの周りの友達がどんどん変わっていった時期だった。
彼が遊ぶ相手は同級生から、中学生くらいの怖そうな感じの人達に変わっていき、次第にうちにヘアカットに来る事がなくなって、一緒にご飯を食べることもなくなった。

名前を呼ばれることもなくなり、たまに会った時に、「祥ちゃん」とあたしが呼べば舌打ちされて睨まれるようになってしまった。
ちなみにこっちは何も身に覚えがないまま嫌われてしまったので、心境は複雑。なんとも苦い思い出である。

そして中学生になってからもいつのまにか出来てしまった祥ちゃんとあたしの溝は一切埋まる事はなかった。

ピアス開けたり授業をサボる祥ちゃんの周りに居たのは、学年問わず可愛いけど凄い不良だって言われてる女の子とか、派手な感じの男子だったし、不良でもなんでもないあたしは普通に関わることがなかった。

唯一、祥ちゃんの知り合いで不良じゃない人達といえばバスケ部の人達だろうけど…その人達とも喋ったことがあるといえばクラスメイトだった黄瀬君と紫原くん、1年の時に委員会で一緒だった黒子君くらいだ。

あたしと祥ちゃんは結局、なんの繋がりも持たない三年間を過ごしたのだった。

そして中学卒業後、あたしは神奈川の海常高校に通っている。
同じ中学からはずっとクラスが一緒だった黄瀬君と何人か面識のない人達が進学した。

祥ちゃんはというと、おばちゃんの話によれば静岡の福田総合という学校に入学したらしい。バスケの強い学校でバスケやってるんだとか。

あまり詳しくは知らないけど、中学の時は部活で赤司君と揉めて退部しちゃったみたいだったからバスケやめちゃったのかなって思ってたけど、続けててよかった。
今となってはもう祥ちゃんとなんの関わりもないし会う事もなくなったんだけども、それでもやっぱりそう思う。

あたしの思い出に残るバスケをしてる時の祥ちゃんは、すごくカッコ良かったし楽しそうだったから。


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