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「えーとまず、ここがかぶきスーパーでィ。えーと、確か毎週木曜日パン3割引らしいぜィ。この前、ザキが言ってやした。」

「あの、総悟さん…お店教えて下さるのは嬉しいんですけど…屯所って、こっちじゃないんじゃ…」

「あっちは歌舞伎町ストア。菓子コーナーがデカくて良いんでさァ。ま、でも空調イマイチ。あんまクーラー効いてないんでさァ。」

「いや、えーと…、」

「向かいのスーパー、アレが大江戸スーパーでさァ。ここらじゃ一番デカイ。で、一番色々売ってるから一番便利でさァ。隠れるとこも多いし。」

「いやこれ、家のほうじゃないですよね?繁華街突き進んでますよね?!」

「忘れてた。ちなみに、さっきのかぶきスーパーの前のコンビニなんですが…アソコはあんまオススメしやせん。だいたい目玉商品のかりゃあげクンが売り切れなんでさァ。」

「ちょ、あの、お願いですからスルーしないで!」


会話として全く成立してない会話をしながら、歌舞伎町一番街と書かれた大きな看板がついたアーチを抜け、あたし達は広い通りを歩いていく。

さっきは通らなかった大通りにはいかがわしそうなお店と隣同士で彼が説明してくれたスーパーやコンビニ、その他甘味処のようなごく普通のお店が立ち並ぶ。まさにカオス。

あの後、あたしは総悟さんが呼んで来てくださったお医者様の診察を受けた。結果は総悟さんがさっき説明してくれた通り貧血と熱中症。でもどっちも軽い症状とのことで、大事には至らず、入院もなしで一安心だ。
そして病院を後にして、帰路についたはずなんだけども、何故かこんなところにやってきたあたし達。
丁度病院を出てすぐぐらいに土方様から電話があったのだが。


「ま。とりあえず、大江戸スーパーあたり行っときやすー?困った時はチェーン店でさァ。」


この人はずっとこの調子である。
はぐれる前に比べて歩くスピードはゆっくりだし時々立ち止まったりしてくれてるから多分あたしのことを気にしてくれてるんだろうけど、大丈夫なんだろうか。いや、絶対大丈夫じゃない。あたしを連れてすぐ帰って来いという怒鳴り声は、通話口から横に居たあたしにまで思いっきり聞こえていたが、あれはもうブチ切れていた。

しかしこの様子では総悟さんはまだ帰路につきそうにない。
あれだけ怒られてなお、一切動じていない彼はある意味肝が座っているとは思うけれど、
電話口から聞こえてくる土方様の声はそれはそれは恐ろしくて、正直泣きそうになった。
そんなあたしの心境は見て見ぬ振りかそれとも全然気づいてないのか。
総悟さんは呑気に「おーい。また迷子になったらシャレになんねーから、今度はちゃんと着いてきてくだせェー。」と、件の大江戸スーパーの前で軽く手を振っている。

一応彼なりにはあたしを気を使って待ってくれてるんだろうけど、根本的に違うと思う。あたしは早急に帰るほうがいいと思う。
でも、もう多分何言ってもスルーされるんだろうしどうしようもないので、あたしは小さくため息をつくと、とりあえず彼の元へ向った。

そしてそれから2時間強。
あたし達はスーパー内の本屋、食料品売り場、おもちゃ売り場を特になんの目的もなく、グルグル回り続けた。

ちなみにこの間に。
土方様がなかなか戻らないあたし達に痺れを切らし、屯所にいらっしゃった隊士の方々に江戸全域にわたるあたし達の捜索を命じていたということをあたしが知ったのは、屯所に戻ってすぐのことである。

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