※男主




これは確かに石田徹雄だった。
足元に横たわる生きた屍は、見間違える事はなく、確かに石田巡査の姿形を保っていた。

先刻、そこで出会った宮田のが巡査なら食堂にいたというので、様子を見に来てみれば、このザマである。

端からこのへたれた巡査がこの状況で生き長らえている等とは微塵も思ってなかったが、なんとまあ無様なことよ。
丸まって、愛銃を抱え込んで。
ああ、こうはなりたくはない。

はて。目当ての巡査は見つける事は出来たけれど。これから一体どうしたものか。
折角、見つけた想い人。此処に捨て置くのは、後ろ髪が引かれた。
はあ。これはほとほと参った。

首をちょんぎっても彼奴等は息を吹き返すのだろうか、等と考えていたところ。

蹲っていた巡査がのそりのそりと起き出した。

「おやまあ」

考えている途中だというのにせっかちな子だ。
宮田のに貰ったレンチを片手に、巡査のこめかみに目掛けて数発。

少しばかり鈍い音が聞こえて、ふらふらと揺れるその様に、はて、巡査はこんなに打たれ強かっただろうかと首を傾ぐ。

「巡査?」

「は、い」

おやまあ、驚いた。
返事だ。返事が返ってきたよ。

へにゃりと笑った巡査がさらに続ける。

「ど、しました。カイリさ、」

「おやまあ、撲が分かるのかい?」

「もちろ、です」

ううん、叩いた拍子に回路なんかが繋がったのだろうか。まるで壊れたテレビみたいだなあ。
まあ、何はともあれよかった。
これで彼を此処に放って置かずに済む。

「巡査、石田巡査」

さあ 行こう、と彼の手を取れば、石田巡査は嬉しそうにはにかんだ。

あら、でも行くったって何処へ行けばいいのだろう。
巡査と二人、誰にも邪魔されない所へ行けたらよいのだけれど。

「カイリ、さん」

「はぁい」

振り向きざま、乾いた音が鳴った。

はたと、下腹部を押さえれば、手には赤がべっとりと。

「巡、査」

巡査の方を仰げば、やはり彼は嬉しそうにはにかんでいて、彼の愛銃から硝煙が上がっている。

それを視界が捉えたが最後、立っていられなくなって撲の身体は地面へと崩れた。

一緒、ですね。
なんて声が聞こえて。

撲は意識を手放した。





ああ、無様だ。
須田という少年に殴られ、意識が飛んでいたらしく、地に蹲った状態で目が覚めた。
ぬかるんだ地面に顔を埋めていたせいで、顔面は泥だらけで気持ちが悪い。

ゆるりと緩慢な動作で立ち上がると、十歩程先で水溜まりに上半身を突っ込んでいる巡査の姿が見えた。

「おやおやまぁまぁ」

ふらつく足取りで彼の元へと向かうと、未だ突っ伏している巡査の背中にはえている羽を掴んで引っ張り起こす。
ほう、巡査の体重をかけてももげないのだからこの羽はなんと丈夫なことよ 。

気を失ったままの巡査を膝上にもたれさせ、透明なそれにそっと手を這わす。

僕は彼に殺され、晴れて屍人となった。
今の僕は巡査やその他の屍人に意識を繋ぐ事が出来る。

ちなみに巡査もあれから進化して、羽がはえた。
なんとまあ飛ぶことが出来てしまうのだから驚くことこの上ない。
はて、人間とはなんだったのか。
屍人になったからといって、こんな昆虫のようなもの。

しかしまあ、あとで空に連れってくれると巡査が言っていたから、満更悪くないかなと思えてしまうのも事実。

二人揃って真っ当な人ならざるものになってしまったわけだけれど、、彼と一緒にいられるのだから、まあこれもいいかな、なんて。
己の武器を掻き抱いて蹲るのだけはやはり嫌だけれど。

「石田巡査」

つつ、と彼の頬を指でなぞり、かぷりとその変わり果てたその顎へと噛みつく。かじかじかじ。うん、しょっぱい。

そのまま噛み続けていると、巡査の
閉じられていた目蓋が薄らと開いた。

こそばそうにふるると震えるのが面白くて、ついつい口角があがる。
瞼に ちゅ、と唇を落とすとびく、と巡査が跳ねた。

「巡査、目を開けて」

ぎゅうと瞑られた目を舌でこじ開けて、犯していく。
舌先が眼球に触れる度、巡査がびくびくと反応するのがいやに楽しい。

痛いのだろうか。
それとも擽ったいか。

屍人になって痛覚が少なからず鈍っているから、よもや後者かもしれない。

「巡査、巡査」

可愛い僕の巡査。

「愛してるよ」

彼の青白い頬を赤い滴が伝った。





ひとならざるものたちの戯れ






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