ジェリービーンズ

屋根裏の戸を開け続け、もう何年経つだろう。
大学を出たら一人立ちするつもりだった将来設計は何時かの内に消え失せて、俺は今だに実家にいる。
あの子も今年で二十一になるだろう。
棚に並んでいる漫画を思うと、憎らしくさえ思える。あの筋書きは変えられやしないのか。

昨日新調したばかりのスニーカーに足を入れる。
懐のゼリービーンズの箱を取り出して、ざらっと口に流し込めば、色んな味が混ざりあって珍味佳肴な事になった。なるほど、これは期間限定のドリアン味のお陰だな。くそ不味い。

玄関の外に出れば、俺の心情とは反対に、空は何時に無く澄んでいた。
清々しい朝の空気が流れ出す。
少し寒いくらいだが、身体を動かす内に温まるだろう。
白い息をほうっと吐き出して、何時ものジョギングコースを走る。

赤い郵便ポスト。並んだ桜の木には葉はひとつもついていない。オーソンの元になったコンビニを過ぎて、歩道橋の脇を通る。目的地すぐの公衆電話が見えてきた。

走り慣れたこのコースは、通路が断たれたあの日から毎朝欠かさず通っている最寄りの神社への道だ。
長々と続くこの階段を駆けあがって参拝をして帰るのが俺の日課。

テレンスの行く末をどうにか変えたい一心で、神頼みをしているわけなのだが、扉の先は今の所幼少期の思い出深ーい屋根裏部屋のままだ。

神様、神様。今日こそお願いします、と手を合わせ、頭を深く下げて、祈りを捧げる。

と、その時。

ガタン!!!!

「っ!?」

拝殿の奥からの尋常じゃない物音に驚き、息を飲む。

な、なになになになに何事!!?

ただ事でない事は確かだ。
神社の人を呼ぼうと、社務所の窓を叩くが、返事がない。
えええ、いないの!?嘘だろ!?

罰当たりかもしれないと思いながらも、俺は閉ざされた障子の戸に手をかけた。
もし仏像様泥棒とかだったら、テレンスごめんね!俺死ぬかも!

意を決して障子を開くと、眩い閃光が視界を覆った。

見知ったその感覚に、膝が崩れ落ちそうになる。デジャブだ。

力の抜けた足をなんとか動かして、その光の奥へと進んでいく。
願い続けたのは自分だというのに正直信じられなくて体が震える。

ああ、神様ありがとう。

ゼリービーンズの箱がアウターのポケットから溢れ落ちた。











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