マリアマッダレーナ


カイリに会うことはもうないのだろう。

開いたクローゼットには服が整然と並んでいるだけだ。
その奥に続いていた筈の空間はどこにもなくて。彼の存在等元からなかったように、アイボリー色の壁が存在を主張している。

彼と私を結ぶ唯一の通路は閉じられた。
その現実だけが此所に、この壁に残されていた。

半年だ。半年、俺はこのクローゼットを開ける事を続け、そして諦めた。

もうカイリに会うことはないのだ。

なんだか体が空になったような気がした。
甘ったるい菓子が食べたくなっても、求めるそれは出てこない。
満たされず、苛々とした気分だけが募る。
鳥肌が立つくらいのこれは、喪失感、からなのだろうか。

ぽっかり空いた穴を埋める何かを俺は求めた。
ガールフレンドを作り、愛でた。

けれど、それも捨てた。
兄に靡いた尻軽女などいりはしない。

人の物に手を出した兄にも制裁を加えたが、奴は不様に俺が悪かったと謝るだけだった。

「つまらない」

耳の飾りから手を離す。
今はもういない男の好んだ紅茶を一服。
積み上がったマドレーヌを一つ口に放り込んで、油をティッシュペーパーで拭うと、テレビゲームのコントロールを握る。

ゲームは面白い。
こんな面白いものを他に知らない。

けれど、口をついて出たのはそんな言葉だった。

ゲームをつまらないと思った訳ではない。
コレは、あれのいない空間を埋めた。

何がつまらないのだろう。
俺は、首を捻った。

チカチカとブラウン管から発せられる光が、この薄暗い部屋に充足感をもたらしている。

このステージをクリアすれば、もうすぐラストステージだ。
ポリゴンの集合体で出来た操作キャラクターをステージの中ボスが待ち受ける穴へと進ませ、戦闘を開始する。

「ああっ」

しまった。油断した。
パーティの仲間が一人やられてしまった。残機二体でいけるだろうか。

瞬間、テレビ画面の光が、突如として消えた。

「...は?」

テレビに映された画面の文字にゲーム機に駆け寄る。
慌てて電源を入れると、軽快な音楽と共にスタート画面が俺を出迎えた。

半ば絶望的な気分でセーブデータを見ると、初期の初期で記録は止まっていた。












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