*学パロ


校舎裏の土埃が立つところに水を撒きながら延々と続くホースの長さに躓きそうになってしまい私のやる気は形をひそめ、その場にしゃがみ込んだ。ルールの分からない野球部の練習風景なんて見たくもなく、私はホースの口を指で挟んでビロードのように広がる水を眺めていた。

「無駄に水を流すな」

上から声が降りかかり、見上げれば二階の窓から機嫌の悪そうなリヴァイ先生が顔を覗かせていた。

「遊んでるんです」

「帰って遊べ」

「お母さんはよく私に泥んこになって水遊びしなさいっていいました」

「女のくせにむさ苦しいぞ」

「子どもの育ちに水は不可欠なんです。息をするのと同じに、私は水遊びが必要なんですよ」

先生に水をかけようとホースを二階に向けたが、すぐに窓を閉められてしまい飛び出した水は私に降り注いだ。かかる水の温度は先生の言葉よりはあたたかい。私には予感がしていた。私が放課後に一人で水遊びなんてしているのを気にかけて、様子を見に先生が二階から降りて来てくれるのだ。そしたら、私は4つ数を数えたあと先生に飛び込んで幸せが目に見て取れるぐらいに抱きしめあい、そして素敵を感じる。

けれども、絵空事は簡単には起きないということを前に先生が私に言っていた。実際、その通り先生は私を心配して二階から降りて現れることはなかったし、抱きしめられることも幸せを指になぞらえて素敵を食むこともなかった。すっかり土を被った鞄を拾い上げて私は自宅への帰路へ就く。

形のない数を数えながら先生を考える。夕方六時を過ぎようというのに空はまだ明るく、夏がじょじょにやってきているのだということに気が付いて無性に切なくなった。激しい寂しさに捕らわれてしまわないため、逃げるように寮へ辿り着いて湯船にも浸からずシャワーだけ浴びるとすぐにベッドを潜りこんだ。

午前を過ぎる頃、廊下から響いてくる妙な足音に目が覚めた。私の部屋を通り過ぎて、だんだんと離れていく足音を枕越しに聞き取ってから、目だけを玄関に向けると扉の隙間から差し込まれたらしい封筒が床に置いてあった。こんな時間に届けられる手紙の存在は明らかに異質で気味が悪い。友達の突拍子もないイタズラなのだろうか。どちらにせよ、まだ眠気の残るまぶたを起きあがらせるには十分な理由にならず、私は再び枕に顔を埋めながら眠りについた。

朝、起きると深夜に届けられたはずの手紙はなくなっていた。ますます気味が悪いが、寝ぼけていただけかもしれないと深く考えることはやめて私は学校へ向かった。


つぎ