「曽良君早く助けて」

「…汚そうなんですけど」

「俺は汚くなんかないぞ!」

私たちの雑言を貫くように何か物体飛んでくると、男の顔面に直撃した。

「いつも曽良君って分度器持ち歩いてるの?」

「筆記用具なら大抵は」

「怖い!」

周到な友人を持ったと喜ぶべきなのか、鬼畜な悪魔を持ったと悲しむべきなのか、悩むときがある。多分どっちもだろう。不安げに曽良君を見つめていると無言で指さされる時計。針は七時を指していた。高校の始業時間は八時十五分から。もう支度をしなければ私の足では確実に始業時間に間に合わない。

「急ぐから待ってて!」

絡まる髪を手櫛ですきながら二階の自室へ駆けていく私の頭には分度器により気絶したままの男の存在は綺麗さっぱりと消えてしまっていた。


つぎ