私が小さなくしゃみを一つこぼしたら、誰かが死んだ。

電車に乗ろうと通勤ラッシュのサラリーマン達に紛れ列に並んでいた時、私は突然鼻の奥がツンとなる感覚に襲われてくしゃみをした。すると誰かがホームから飛び降りたのか何なのか、沢山のどよめきが聞こえてくる。前から悲鳴が上がるのとともに落ちた人は電車に轢かれてしまった。私は驚いてすぐに改札まで走り駅から出て行った。

近くの公園にたどり着いて大きく瞬き。もしかして、さっきホームから飛び降りた人は私が殺してしまったんじゃないか、そんなことを瞬時に思ったのだ。私が無遠慮にした、くしゃみのせいで落ちてしまったんじゃないのか。私はひどく怖くなった。鞄を強く抱いて眼をつむる。寝ぼけたその人は電車が来るまでのわずかの間、睡魔に身を任せ眠ろうとした瞬間、私のくしゃみに驚いて落ちた、かもしれない。

「悩んでるのかい」

「誰?」

いつの間にか私の隣には臨也がいた。薄ら笑いを浮かべて、私を見ている。

「あの人が何で落ちたのか」

「見てたの?」

「だってあれ、落としたの俺だよ?」

公園にある噴水に群がっていた鳩が飛んだ。急な水の噴射に驚いたからだろう。私は気づかない内に鞄を抱いていた手を緩めていた。


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