01
 トトトン、と可愛らしい足音を鳴らしながら天音はスカートを翻した。『了&バクラ』と書かれたプレートが掛かっている部屋の扉を開けると二段ベッドの下の方で寝ていた兄、バクラの腹部へとダイブする。同時にぐふっと空気を溜め込んだ声がしたがそれでもお構いなしにその体を揺さぶった。

「バク兄ぃ、朝御飯できたよ!…ちょっと。震えてないで起きてってばー」
「誰のせいだと思ってやがる…!」
「私知らなーい。了兄ぃも起きてー!」
「性格わっる…!」
「もーバク兄ぃ煩い。盗兄ぃに言ってご飯抜きにして貰っても私はそれで別にいいんだよ?」

身長は伸び悩んでるといえどまだまだ成長余地のある健全な男子高校生がご飯を抜かれれば辛い思いをすると知っての返しにバクラは怯んだ。小悪魔的にふふんと了そっくりに勝ち誇った笑みを浮かべて胸を張る。

「…ぺちゃんこのクセに胸なんか出しても誰が得するんだよ」
「むがー!もう決めたからね、ご飯抜き決定なんだからね!?今すぐ言ってきてやるんだから」

盗兄ぃー!と叫びながら部屋を出ていく天音の後ろ姿をバクラは頭を掻きながら無愛想に見送った。
 まあ、あの兄貴なら言いくるめりゃなんとかなるだろ。そんな考えがあってか焦ることなくベッドから生ぬるい床へと足を降ろした。

「んふぁ…おはよーバクラ…。たしか天音の声が聴こえたような気がしたんだけど」
「はよ。俺は知らねえなァ、大方どうせ夢に出てきたアイツの声だろ」
「そうかなぁ?それにしてはリアリティのある起こし声だったんだけど…」

のそりと起きた了に天音に仕返しだと子供染みた嘘を教える。どうしてか二人は兄妹の中ではとくに仲が良く、双子の片割れであるバクラでも入れない雰囲気があった。だからこその嘘なのだ。



 着替えが終わり制服に身を包んだ二人が揃ってリビングへ足を踏み入れた。テーブルには既にパンやサラダ、コンソメスープと朝食が用意されている。今日は洋食らしい。

「おはよー」
「おー。飯できてっから、時間も無いし素早く済ませちまえよ」

がたいの良い体にヤクザのような右頬の傷にミスマッチな可愛らしい兎のプリントがされた水色のエプロンを着て、長男である盗が台所から顔を出した。隣では子盗が受け皿を持って立っていた。二人は並ぶと瓜二つだが歳の差はかなり離れていて町では度々親子に間違えられる。
 頷いて席に座ればバクラの前にも食事はきちんと用意されており、天音にニヤリと笑った。

「ヒャハッ!説得には失敗したようだなァ?」

見せつけるように食べ始めれば天音の頬は風船のように膨らんだ。了の太股に顔を伏せてばしばしと膝を叩く。

「盗兄ぃのバカー!裏切り者ー!」
「天音、静かにしないと天音のご飯なーし」
「ぶええー!了兄ぃ助けてっ、二人がいじめるのっ」
「おあいにく、お前が助けを求めてる奴なら食べることに夢中で聞いてねえみたいだぜ?ざまあねえな」
「あま姉ぇ!静かにしないと盗兄ぃにまた言われるよ?」
「みんな酷いー!」

朝から騒がしく叫びながらも渋々といったように天音はフォークを持ってサラダを食べだした。それに満足して盗も席に着いて手を合わせいただきます、と呟いた。



 食卓に携帯のアラーム音が響く。時計を見れば長い針は六を指し、短い針は七と八の間を指していた。

「やべえ!おい、いつまで食ってんだよ。歯磨いてこい!」
「まっふぇー」
「待ってられるか!たく…俺様はもう準備終わってるから、お前も終わったら声かけろ」
「ふぁいふあい」

のんびりと受け答えする了にバクラの肩はぐったりと下がる。興味がないことには焦りがないというか、執着がないらしい。その我が儘に付き合わされる身にもなって欲しいところだが生憎バクラは世話焼きのようで了もそれに付け入り更に甘えているようだ。
 盗は片付けが終わると双子の髪を無造作に掻き乱し口端を上げた。

「オレとチビはもう出掛けてくるが遅刻はするなよ?おらチビ、行くぞ」
「あいあいさっ!」

のしのしと玄関まで歩く大きな背中の後ろを子盗は古ぼけた黒のランドセルを背負って着いていく。――あのランドセルは盗が昔に使っていた物らしいが傷は男の勲章だと子盗自らが進んで背負っていた。
それに続くように天音も友達との待ち合わせが迫っているからと家を早々と出ていってしまった。
 置き去りにされた二人はボサボサになってしまった髪を整え顔を見合わせる。

「…僕たちも行こうか」
「歯は?」
「あ…今から磨いてくる」

兄の天然さに先が思いやられながらバクラは深くため息を吐いた。
 時計はもう先刻よりも十分進んでいたのだった。

 

back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -