解ってんだよ…このままじゃ叱られるってこと。雑用を命じられ、面白そう楽しそうなことはやり遂げ、他はポイして後に怒られる。「貴様は命じられた仕事も出来んのか」と罵られても鋼メンタリティで復活するからいいんですけどね。いやよくない。

 ともかくも溜まった仕事をなんとかせねばならない。わたしに課せられる雑務なんて期限も要らぬ重要性の欠片もないものばかりだとしてもだ。ここまで放置されては課した人間も忘れていそうだ。忘れていてほしい。

「ワシが部下に課した仕事を忘れるものか。先週の訓練用忍具の受注表はまだか、それを優先的にやれ」

 記憶力いいなあ、扉間さん。

「びっくりしました……飛雷神で急に現れるのやめてください。心臓止まるかと思いましたよ」
「貴様は既に止まっておるだろ」

 何度目かわからない、このやり取りのつっこみを入れてくれた。
 これは長年の研究により解明したことであるが、千手扉間のつっこみの術は疲れているときその威力が弱まる。具体的には返し方が適当かつ速度が遅くなるのだ。非常に疲労が蓄積されている状態ではつっこみすらしない。そんなときは、なるべく口数を減らして扉間さんが進めている作業を出来るかぎり手伝うようにしている。ええ、よくできた部下だと自負しています。もっと労って!

「よくできた部下なら仕事をこなせ」
「…うっ」

 どさり、また新たな書類が積まれた。扉間さんが席を占領し始めたので、どうやら彼も事務をするようだ。家に帰っても仕事なんて真面目ですね。こうなったら話題そらしの術です。

「お疲れさまです扉間さん。今すぐ支度しますから、ご飯にします?お風呂にします?それとも…」
「仕事」

 仕事かァ。

「……シルバーウィーク」
「忍にそんなものは無い。それにナマエは日々さぼっているから不要ではないか?」
「そこに気づくとはやはり天才ですね」
「おだてても期限は延ばさんぞ」

 扉間さんのケチ鬼軍曹!でもブーブー言ったところで貴様は豚かと罵られそうなのでここは素直に頼まれた受注票をまとめようじゃないか。
 束になった要望用紙にはどこのスーパーマーケットの安売り値段ですか?な中途半端な数字ばかりが希望されていた。百と書くと却下されそうなんで八十と書きました。そんな数字ばかりだった。謙虚なんていらないので今後このような書類が必要ないように千とか希望しちゃえばいいのに…。

「アカデミーで使用されるものだからな。生徒の数によって年度ばらつきがあったりするから仕方ない」
「じゃあ手伝ってよ…」
「ワシは五影会談の準備で忙しい」
「怪談かあ……扉間さん、語り上手そうですよね」

 陰険な扉間さんは怪談得意そうだ。自分が語る番で一瞬で緊迫した空気に変える能力とか持っていそう。そして他人の話にはそのザ合理主義を発揮して弾丸の如く論破しまくる。
 あ、この人一緒に肝試ししたくないタイプの奴だ!でもお化け屋敷には心強い!

「階段から落ちろ」
「すみません、ふざけました」

 なんて、さすがに会談の意味を間違えるほど馬鹿じゃないです。ちょっとボケただけです。

「…兄者が集めた尾獣を餌に、上手く条約締結に持ち運べるといいのだが」

 いつになく不安そうな扉間さんだ。五影会談…これが失敗したらまた戦の世に戻るかもしれないからか。各里パワーバランスが安定して大きな戦はなくなってきたのに逆戻りするはめになる。そして扉間さんの卑劣な術の犠牲者が増える。

「兄者がとんでもないこと言い出しそうで不安だ…」
「優しい人ですから。国家のやり取りならその甘さに付け込まれそう」
「タダで配るとか言い出したら…兄者なら言いそうだ」

「尾獣を配るって大変そう…」

 尾獣を配る…なるほど。子犬が産まれて親戚に配る、そんな感じか。子犬が成長する写真を日々やり取りして交流。近所のお婆さんの家でで子猫が産まれたから一匹くれるって!面倒見るから引き取っていい?と親に聞いたあの頃。結局世話はしない子供達。猫のトイレ掃除は母親が。犬の場合は散歩係りが母親に。

 それを国家規模で行うなんて、まったく扉間さんったら…。尾獣なんて誰が散歩すればいいのよ!

「でもそのうち愛着が湧いていつのまにかマスコットになってるんですよね」
「ナマエが想像しているのとは違うぞ」
「へ?」

「……もういいからその票をまとめてくれ」
「わかりました」

 しばらくの間、微妙な空気が漂ったのであった。ちなみに扉間さんの予感は適中したらしい。


会談前の雑談任務

 

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