マダラと料理の続きです。



 料理を作る際に、基礎となる出汁。出汁の作り方…もとい取り方は昆布、鰹、煮干と三パターンもある。

 味噌スープは湯に味噌溶かすだけだと思っていた、あの頃のわたしとは違う。
 出汁って塩みたいなものなのかな?と味塩を入れまくってしょっぱい味噌汁を作り出した頃とも違う。

 鰹と昆布の合わせ技、相乗効果の出汁を取り出す術を教わったのだ。
 その手順通りに出汁を取り出して……捨てた。ざるに残った鰹と昆布の残骸を見て、やっちまったと思った。湯で上がった素麺を取り出すようにザバァとやってしまった、無念。
 良い子の皆はざるの下に鍋やボウルを置くようにしましょう。でないと、せっかく取った出汁を流しに捨てるはめになる。わたしのように。

 そんな時には、理想の世界…そう、無限月読(味の素)の存在。これさえあれば出汁なんて面倒な作業は要らなかったのよ!

 寧ろこちらのほうが美味しく出来上がっている気がして自信満々に茶碗によそう。今度こそ、数々の失敗の挽回だと嬉々として盆にのせた。献立も悪くない。
 奴の前に盆ごと差し出すと、手を合わせてから、箸置きから箸を取る。相変わらずこういう礼儀作法はしっかりしている男だ。戦場では礼儀もない卑劣な術や姑息な策ばかりやる男なのに。ギャップ萌えでも狙っているのかしら、わたしは騙されませんよ!

 勇ましく振る舞うには、やっぱり少し不安なので予防策を張る。

「すみません、ちょっと失敗しちゃいました」

 今までのが大失敗の繰り返しなので、ちょっと、を加えるのが然り気無い上手く出来たの主張。

「味噌汁か」
「はい。出汁取りが手間取って、でも味の素使ったので大丈夫です!」
「コンソメの味がするぞ」

「……ちょい待ち」

 飛雷神の使い手、千手扉間も驚きの速さで台所へ駆けた。
 後片付けが放置されている流しや、使った食材の残りを見て唖然とした。

 オゥ、なんてこった。

 味の素とコンソメを間違えている。両方粉末タイプだったので見間違え使ったのだろう。
 コンソメのもとと書かれた、粉末が入っていた小分けの空包装袋を手に取り項垂れる。しかし落ち込みたいのはろくに料理も出来ない嫁をもった扉間のほう。

 台所から戻るとわたしの夫となる殿方は文句も言わずに、お世辞でも美味しいとは言えないわたしの手料理を食べていた。
 何時ものように、我がうちは一族に対する皮肉や嫌味の一言でも言えばいいのに、この時だけは何も言わずに完食してくれる。

 扉間は三度目の正直にならなかった味噌汁…コンソメと味噌が合戦を繰り返し荒れたスープを苦肉の表情で飲み干した。

「次は頑張りますから」
「ああ…」

 双方、青ざめた顔色で応えた。
 残念なことに現実は地獄で、お盆の上には外は焦げていて中は生の焼き魚も鎮座していらっしゃる。味噌汁と煮物に戸惑って時間がないから火遁で焼いた地獄の魚さんだ。扉間が箸をつけて中まで火が通ってなかったと判明したのだ。
 煮物だけは料亭で並んでも見劣りしないほど美味しそうに待っている。
 結局、頭領の計らいで料亭で学べたことは、包丁を巧みに使う方法だけだった。でも所詮は付け焼き刃、長年死線を越えてきた愛刀のほうが使い勝手がよい。
 刀を使い、お花の人参に、綺麗な六角形の里芋、アクセントにいんげんの緑を彩った煮物だけこの眼に写しとることが出来た。これは味の保証はある。なんせ一から十まで写輪眼で修めた料理なのだから。

「思ったより中は生ですね…焼き魚と言うより焦げ生魚ですね本当に申し訳ないすみませんごめんなさい」
「そこまで謝らんでもいい」
「火遁で対処します!」
「灰になるからやめろ」

 瞬時に印を結び、寅の印を構えチャクラを練り終える。後は吐き出すだけなのに、席を立った扉間に止められた。

 数秒の間、戦の間合い取りの緊張感に包まれた。スッと印を解き、チャクラを押さえると安堵した扉間は席に戻り再びわたしの手料理に箸をつけた。

 千手に嫁入りとかねーよ!なんて考えているから料理が上達しないのだろうか。もし食べさせる相手が扉間なんかでなく、例えば頭領様だったらと考える。
 頭領だったら、こんなわたしの作った料理は食べさせられないわ。もし嫁入り先が頭領だったら、己が料理を振る舞う前に自害している。あの師弟関係にもならない友達ックな関係だからこそ料理アドバイザーとして台所を一緒に攻略出来るのだ。

 じゃあ、やはりわたしの料理才能が壊滅的なのか。女子力とかそんな次元ではない。

 夫は扉間でよかったのだろうか。政略的な夫婦で、互いに遠慮している距離感はどことなく居心地が良い。そう思っているのはわたしだけなんだろうな。扉間からしてみれば返品不可の毒薬製造機を押し付けられたんだから。
 自分の料理が毒薬とか泣きたくなったわ。

「ナマエ、茶…いや水を頼む」

 扉間からは、お茶も満足に淹れることが出来ない女と見なされているのか……。自己嫌悪で胃が痛い。

「ねえ……無理して食べなくていいです。不味いなら卓袱台返しして構いません」
「そんな行儀の悪いことはしない」
「でも不味いでしょう。わたしの料理」

 お水を出しながら、扉間の様子を伺う。表情はないけれど、図星というのはわかる。だってわたしの料理不味いし。完食したら気分悪くなる暗殺兵器化しているし。

 無理して食べるなら、いっそ、うちはの女はろくに飯も作れんのかー!みたいにガッシャーンと盛大に盆を投げ飛ばしてほしい。そうしたら此方だって気が楽になるのになあ。

「アナタって妙なところで優しいですよね」
「……買い被りすぎだ」

 そんな風に言っても、わたしは完食してくれる優しさを買っちゃいますから。案外、この生活も悪くない。うちはと千手、色々と問題を抱えていますが上手くやっています。

 問題があるとすれば扉間の味覚と胃が、わたしの料理上達まで持つかどうかというところです。千手扉間には一族友好の証として、頑張って忍び耐えほしい。わたしも頑張りますから……料理を。


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