初めてクナイを手にしたのは三つの時だっただろうか。手裏剣と一緒に渡され、早く戦場に出られるようにと日夜修行に励んでいた。上手く的に刺さらず、戦場では動く敵を当てるんだぞと言われ、畏怖した幼い頃。懐かしい初陣、喪った仲間達。

「これも、ある種の戦かな……」

 勝算はなかった。

 クナイを手にしたのは三つの頃で、包丁を手にしたのはつい最近。嫁入りが決まって、料理というものを始めてみた。嫁入り相手になめられぬよう、女子力を鍛え始めるようにしたのだ。

 手裏剣術を五つで修め、難しい術も同年代の子供達より早く覚えられた。さすがに、頭領となったマダラには勝てなかったけれども……なんでも出来た。術も、戦場で生き抜くことも、でも、これだけは。

「マカロナージュとか、そういうレベルじゃないよね。ねりきりみたいになってるよ」

 何故か出来ない。
 医療忍術様ほどではないがチャクラコントロールだって上手な方だと自負している。薬草や術の知識も人より多く、この頭に積めてきた。
 だというのに、手元にあるマカロンになるべき材料達は反抗的な態度であった。いい加減にしろ、またゴミ箱に捨てるぞ。貴様ら。

「しかも色が毒々しい、なんだこれは」
「奴の甲冑をイメージしました」
「……そうか」
「ええ」

 千手になめられてなるものかと、女子力の修行を始めたが…なかなか難しい。

 愛しの旦那様かっこ爆笑になる予定の、千手扉間・通称親友イズナの仇をイメージして女子らしくマカロンを作ろうと三度目の挑戦。
 一度目はドロドロし過ぎて上手く円形を作れずひび割れもあって失敗。二度目はクッキーみたいになった。そして三度目の挑戦、どこかで分量を誤り、ねりきりみたいになった。

「ナマエ、正確には四度目だ」
「あれはノーカウントですよ頭領様。オーブンを知らなかったのでセーフです」
「寧ろアウトだろ。オレは火遁で菓子作りする女を初めて見た」
「うちはの歴史に名を刻みましたね」
「ああ……」

 出来ればそんな不名誉、刻みたくなかったかな!

 千手との婚約も、決めた頭領には言えないけれど不名誉だとわたしは思う。好き好んで嫁に行くわけではない。しかし、既に一族同士の婚約は口約束で済ませてしまった。政略結婚という覆すことの出来ない状況。差し迫る期限。

 どうしよう。このままでは、料理全く出来ないのに嫁入りすることになってしまう。千手扉間に呆れられる…うちはの女は料理も出来んのかとか馬鹿にされてしまう…!あの千手扉間ァ…に!

「大丈夫だナマエ、料理は愛情とか言うだろう。適当な愛を宣い奴に無理矢理食わせろ」
「白髪のオッサンに愛なんて湧きませんわ」
「幻術にはめろ」
「なるほど」

 いや、駄目でしょう。
 こんなねりきり…青色の粘土みたいなってしまった食材を食べさせちゃ駄目でしょう。女子力とか愛情とかそういう話じゃない。幻術にはめ食べさせたら拷問になってしまう。

 何故か奴の甲冑みたいな光沢がある粘土を袋に密封し、ゴミ箱に捨てる。廃棄だ廃棄、こんなもの料理本に描かれているマカロン様とは程遠い!写輪眼でも確認できぬほど遠いぞ!

 そもそも、わたしがマカロン様を作り出すなんて無理な話だったのだ。
 お菓子作りの最難関とまで書かれたマカロン…これさえ作れれば一気に女子力鍛えられると挑戦したのが間違いだった。
 クナイも握れぬ子供が火遁を扱えるか?答えは否。何事にも順序というものがあり、料理も基礎を学び、夕餉を一通り作れるようになってから菓子作りを嗜み、それもある程度慣れてからマカロンに挑戦すべきだ。

「菓子作りはいい。男は飯さえ差し支えなければ満足するぞ」
「頭領……なんか付き合わせてすみませんね」
「お前とオレの仲だ、気にするな」
「ありがとうございます」

 頭領の優しさを心に染み込ませながら、別の料理本を手に取る。今度は家庭料理の本。
 菓子作りは後回しにしよう。菓子なんて所望してきたあかつきには、うちはせんべい出せばいい。第一、あの千手扉間がマカロンを食べる姿なんて想像できない。

 普通の、家庭料理とやらの修行をしよう。

「ああ、でも普通の料理なら結構出来ますよ」
「それは頼もしいな」
「鍋一択です。火力は任せてください」
「…そうか」

 炒め物や焼き物と違って水を足せば自慢の火力を維持したままでも焦げることはない優れた鍋料理。
 五割の確率で底で具が固まって焦げるとこもあるけれど、おこげってことでいいでしょう。煮物のように繊細に食材を切らなくてもいい。適当に火が通るぐらいに切って鍋にぶちこませるだけ…。

「頭領も食べてみます?今から作りますよ」
「遠慮しよう」

 遠慮されたということはノーサイン。鍋は駄目なのね…じゃあ蒸し料理はどうでしょう。扉間は水遁が得意なので、わたしの火遁と合わせて水蒸気を発生させれば蒸し料理が出来るかもしれない。夫婦共同作業でシュウマイや桃饅頭をつくるのよ。

 なんてことを考え、現実逃避を始める。
 もう駄目だ。料理を修めるぐらいなら扉間暗殺したほうが早い。

 結納まで期限はないのに、このままじゃ料理も掃除も洗濯もできないのに奴が結納品を渡しに我が家にやって来る!
 かくなるうえは最終兵器母親を口寄せするしかない。
 
「ナマエ…結納までの期間、一族御用達の料亭で修行してこい。オレが話をつけてやる」
「そんな、頭領にも料亭にも迷惑かけるわ…基礎も出来ないのに…」
「一から教えてもらう必要はない」
「えっ」
「オレ達はうちは一族だ」

 スッ、と頭領の眼が紅くなる。基本の三つの巴模様。つまり、その。

「写輪眼で一流料亭の技を盗め」
「頭領……っ!出来れば初めに言ってほしかったです」
「オレも今思い付いた」


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