1/20

『進学、進級テスト三日目まではできるだけ幽霊を学校に連れてこないこと。連れてきても校舎には入れないこと。三日目は必ず連れてくること』

それが無償措置の一環指示であった。
入学式からこちら、何某の中には何となく違和感があった。それは普通の人には違和感とも呼べない違和感だった。
そう、学園内に幽霊が一体も居ないのだ。

通常の幽霊は普通の人間には見えない。
霊力が弱く、人間の持つ霊力に感応しきれないからだ。ベクトルに差異が起き、見えたり見えなかったりすることもある。
他にも気配を感じる、声だけ聞こえる、暗闇が怖い、心霊写真など。人によって感じ方も見え方も様々だ。
しかし師騎の家系で定説と呼ばれているのが、『霊力の無い人間は存在しない』ということだ。
つまり全ての人間は幽霊を感じ、見て、触れる可能性を持っていることになる。

勿論普通に暮らすうちでは霊力を全力で発揮する機会などないし、どうやって発揮するかもわからないだろう。
そしてベクトルが不安定すぎてどんな補助装置を着けても幽霊を見ることのできない人種もいる。
師騎の間で『稀少種』と呼ばれる人種である。しかしその人間達も霊力が無いわけではない。むしろ霊力は異様に強い傾向がある。

話はずれたがそう言った(霊力が通常で方向性である程度見える)人間と少なくとも一線を画している朔夜、零威、鞍羅の三人が、どんなに霊力を発揮しようと様々な方法を試しても、学園内に幽霊の存在は確認できなかった。

無論三人でも通常の状態では霊力の弱い守護霊や背後霊は見えない。見えないように無意識に調整している。
三人の連れている霊や片倉などは、彼ら的に最低限の霊力でも見えるくらい幽霊自体の霊力が強いのだ。だから感応してはっきり見えるし、触れることもできる。ただし、触れられるのは桁外れの霊力を持つ人間のみだ。
幽霊の霊力が強い、弱いの設定は前世の霊力も由来すると言われている。詳しくはわからないが、松本などは特殊な能力も相まってかなり強力な霊力を発揮する。

生まれ持った霊力を段階的に発揮できるよう修行した三人が見えないのだから、幽霊は居ないことになる。
無論普段は見えないようにしているが他の人間にも守護霊なり背後霊なり憑いているはずだ。
それが見えないのは、違和感以外の何物でもなかった。

条件が条件なので朔夜、鞍羅の霊は飛鳥に断って部室に待機させていた。零威は二日目まで意地でも連れてこなかった。

そして、上記の条件。
不思議を解明する糸口となる。
進学、進級テスト三日目。

三人だけではなく一年生全員が知ることになる。
何某学園高等部の秘密を。








「ありゃ」
「…何これ」
「やだ〜恥ずかしいぃ」

進学、進級テスト三日目。
三人は比奈の市駅で合流して登校してきた。
学園最寄りの駅から15分ほど歩いて校門前に辿り着くと、沢山の生徒が何やら数人の人間に群がっていた。雰囲気からして多くは上級生らしい。
紙切れのようなものを取り合っている。

それが一枚風に乗って三人の足元に流れ着いた。
朔夜が拾う。二人は両脇からそれを覗き込んだ。

『不定期刊行 ナニガシンブン』

ネーミングはどうかと思うが、どうやら校内新聞らしかった。
目を走らせると、一面に昨日三人が駅で抱き合う写真がこれ見よがしに印刷されていた。その脇に踊る文字。

『噂の新一年生、皇、剣、巫!早くも三角関係勃発か!?』

「…何これ」
零威が再び呟いた。朔夜と鞍羅は首を傾げる。零威は朔夜の手から新聞をもぎ取り文面に目を走らせた。



[ 36/55 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
メインへ
TOP



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -