■ 被食者ハウンドドッグ

「おじ様!」

 海軍本部には似つかわしくない華のある声に、その場にいた全員が振り返った。
 メンバーは海軍の栄えある三大将──青雉ことクザン、黄猿ことボルサリーノ、そして赤犬ことサカズキである。時間は丁度昼下がり、仕事も大してない平和な日で、自然とお茶で一服と相成っていたところだった。
 3対の目が捉えたのは、上品なAラインのワンピースに身を包んだ子供だ。半袖とフレアなドレープを描く裾から伸びた手足は正に瑞々しい少女のそれである。腰辺りまである黒髪を自然に流し、深いアメジストの瞳はきらきらと輝いている。抜けるような白い肌が降り注ぐ初夏の日差しに眩しい程だった。

「…あららら、お嬢ちゃんどこの子? もしかして迷子?」
「海軍本部で迷子はないでしょ、迷子はァ〜」

 ややあってクザンとボルサリーノが反応する声を上げる。少女はそれにきょとんとした顔を見せ、迷いなく歩みを進めて3人の座るソファの側までやってきた。足取りは軽く、最強と言われる者たちを前に実に堂々としたものだ。
 こつりと小さくパンプスのヒールの音をさせて、少女はしっかりと真っ直ぐ前から目当ての人物を見据える。

「無視するなんて酷いわ、サカズキのおじ様」
「──………※※※」

 絞り出すかのような声音だった。常の顰めっ面を更に深くして、サカズキがその重たい口を開いたのだ。
 途端に少女──※※※は顔を綻ばせる。まるで可憐な花が咲いたような笑顔だが、サカズキの表情は固くなるばかりだ。悪鬼すら裸足で逃げ出しそうな形相である。
 唇に笑みを乗せたままで更に近付こうとする少女の動きは、しかしサカズキの二の句によって遮られた。

「何をしちょる、まさか一人でここまで来たんじゃあなかろうな」
「あら、随分な言い種だわ…私海兵になりにきたの」

 ごく当然のことのように告げられた言葉に、室内の温度が3度程上昇した。ように、少なくとも当事者以外の二人には感じられた。

「それだけは許さんと何度言わせる気じゃ、おのれは…!」
「うふふ、凄んでも無駄よ。少し会わない間にもう忘れてしまったのかしら、おじ様ったら」

 微笑ましい会話でもしているかのように※※※が笑う。そこらの人間なら卒倒し兼ねない怒気をサカズキは漲らせていたが、自身の言を裏付けるように彼女は怯えるような素振りもない。それどころか嬉しげに目を細める様子はどう見ても尋常な反応ではないように思われる。
 細く、今にも折れてしまいそうな指がサカズキに向かって伸ばされる。それを露骨に避ける形で、サカズキは席を蹴立てて足音も荒く部屋を出ていってしまった。
 残された※※※はクスクス笑いながら何気なくサカズキのいた位置に収まり、置き去りにされたキャップを手にしている。その表情は年若い少女のものにしてはどこか大人びたものだった。

「えぇっとォ〜、※※※ちゃん?は赤犬の──」
「姪です。おじ様がいつもお世話になってます」
「いやぁお世話してるって言うかされてるって言うか………さっきよく笑ってられたね?」

 曖昧に笑いながら気になっていたことを問うたクザンに、返されるのはやはり穏やかな笑顔だ。子猫のように目を細め、※※※は軽やかに言葉を紡ぐ。

「自分に都合の悪い時に威圧して相手を黙らせようとするのはおじ様の悪い癖です。でも私には効かないから逃げ出しちゃって…ふふ、可愛い」

 悪戯っぽい顔は可愛らしいが、発言は何だかとてもではないが聞き逃せない内容である。もしやとんでもない大物がやってきたのでは、とクザンとボルサリーノは密やかに顔を見合わせたのだった。




「おじ様、また圧力掛けて私の入隊届け握り潰したでしょう」
「……知らんわい」
「事務官さんをあんまり苛めちゃ駄目よ? おじ様顔怖いんだから」
(俺は平然とサカズキの膝の上に乗ってる※※※ちゃんの方が怖い…)
(何だかんだ馴染んでるよねェ〜)





サカズキさん×おにゃのこ=くそかわ

13.11.22

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