□髪を伸ばしたその理由
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姉さんが死んだ。いや、誰かに殺された。
人はあっけなく死ぬものだと言ったのは、いったい誰だったか。
「おい総悟。聞いてんのか」
わずかに苛立ったような声に、俺は鏡越しにソイツを見た。
人の部屋に勝手にやってきて、勝手に煙草をふかしているソイツ――土方も鏡を通して俺を睨みつけている。
つか、煙草吸うな。部屋がヤニ臭くなったらどうすんだコラ。
と思ったことは、あえて口には出さなかった。
「なんですかィ?全然聞いてやせんでした」
くるりと振り返って本人に視線を向けてから、とぼけて応えてやると、土方のこめかみに青筋が浮いたのが見えた。
「だから、いい加減その鬱陶しい髪を切れっつってんだよ」
そう言って土方が睨みつけた俺の髪は、最近ようやく肩を超えたところだった。
俺が髪を伸ばし始めてから土方がイライラしていたのは、最初から気づいていた。
きっと少し髪が伸びた俺の姿は姉上を連想させるのだろう。最近では、自分でも鏡を見ると姉上を思い出すのだから。
「まあ、そんなにカリカリしねェでくだせェよ。たぶん、もうそろそろ結べるはずなんでさァ」
イラつく土方に背を向け、俺は再び鏡と向き合う。そして以前から用意しておいた髪ゴムで後ろ髪をまとめてみた。
後頭部の中ほどの高さにまとめたそれは、まだまだ短く首を掠ることさえしない。
「まだ、長さが足りねェか…」
ぽつりと呟くと。
「袴まで着て、奏の真似事か?そんなことして何になる」
俺の独り言に対して、土方がそう返してきたので、少しイラッとした。
「あいつを弔う気があるなら、一刻も早く犯人を捕まえることだ」
「……捕まらなかったら、どうする気ですかィ?」
「総悟?」
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