□髪を伸ばしたその理由
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「犯人が……万事屋の旦那だったら、どうするんですかィ?」
「あのシスコン野郎が奏を殺すはずねェだろ…」
「けど、姉さんの死因も、集まってくる目撃情報も、犯人は旦那だって言っているようなもんじゃねェですか」
「……」
「――忘れそうになるんでさァ」
「?」
「姉上はガキの頃から一緒にいて、俺と顔も似てるから、俺が姉上のことを忘れることはねぇ。けど、姉さんは違う。もう、どんな声だったかさえはっきりと思いだせねェ。顔は身近にいる誰とも似てねェし、写真も撮ったことないからどんどん記憶から薄れていってる。きっと……俺はいつか、姉さんのことを完全に忘れる」
土方が煙草の煙をフーと吐く。どこか溜息混じりに聞こえるのは、俺の性格が歪んでいるからだろうか。
「万事屋の旦那はもういねェ。桂は打ち首決定。鬼兵隊は行方知れず。あの人が大事なんだって、守りたいんだって言ってた『家族』はもういねェ。姉さんのことを絶対に忘れない『家族』はもういねェ…。だからせめて、顔も声も忘れても紅月奏という人物が俺たちの仲間だったんだってことは忘れたくないんでさァ」
そう告げて、俺は刀を手に部屋を出る。その後、土方が呟いた言葉は俺には届かなかった。
「違ェだろ総悟。お前は、忘れたいんだろ――奏のこと。だから忘れ始めてんだろ?俺ァ何も忘れてねェよ。あいつの顔も、声も。もう忘れるのは嫌だと言った時のことも」
――二人目の姉を失ったのは、そんなに辛かったか?
「ま、無理もねェか。あんな殺され方じゃあな……」
[完]
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