「……おーすげぇこと訊いちまったなぁ」
「あ、ああアイツ、十代目を、」
「……き、訊いちゃいけなかったよねコレ……!」

どうしよう、とかそういうパニックの言葉が凄い頭の中でぐるぐる回ってるそのすぐ隣で、嬉しい、とかそういう喜んでる言葉が一緒になって回ってる。気がする。あの声は苗字さんだ。二人もわかってるみたいだ。(獄寺くんなんか驚き過ぎて震えてる)(なんでそこまで震えてるんだ)
獄寺くんと山本と一緒に屋上でお昼を食べようとしたら、お……俺なんかを「本当はすっごく優しくて本当はすっごくカッコイイ」とか「素敵」とか、もう、なんか、脳みそが破裂するような言葉が屋上へ出るドアの向こう側から聞こえて、ドアを押す手が止まった。獄寺くんは煙草を床に落として山本は笑顔のまま一時停止。静寂が俺たちを支配した。
そしてさっきの山本の言葉でみんな我に返った。(獄寺くんは煙草を一応拾った)

「…………」
「……ツナ、どうすんだ?」
「え?どうって……」

狼狽える俺に、口調は明るいけどでもふざけないで山本は云った。

「ツナは、苗字のこと、どうなんだ?」
「え……、と」
「そんな急にわかるわけねーだろが!!十代目を悩ませんじゃねぇ!」

獄寺くんが吠えた。すると山本はにっとわらって、

「わーってるって!……別に今告って来いとか云わねーけどさ、とりあえず一緒に昼食ってみたらどーかなって」
「え、でも今友達といるみたいだし……」
「いや、大丈夫ほら。」

なにが「大丈夫」なんだと思いながら山本の目線の先を見た。すると眼の前のドアがガチャリと開いた。そこには苗字さんの友達のきょとんとした顔。俺たちを見た。瞬間、ニヤリと笑った。(豹変!)

「訊いてた?さっきの」
「御免な、訊き耳立てるつもりはなかったんだけど」
「わかってる。それにいいよ、丁度良いし」

そう云って俺を、見て、またニヤリ。
びくりと肩が震えた!そして何故か俺を中心とした話は俺と獄寺くんを抜いてポンポン進んで、何故か山本は獄寺くんと肩を組んだ。いや獄寺くんは組んでない。山本だけだ。

「なっ、なにすんだ野球バカ気色わりぃ!」
「まぁまぁ抑えろって!俺ら昼飯は教室で食おうぜ!」
「なっ、十代目はどうすんだよ!」
「ツナは屋上、いいよな?」
「えっ!?」

既になんか決まっちゃってる!そんな具合だから俺の返事は待たずに山本は獄寺くんを引きずって行ってしまった。器用にも苗字さんの友達と一緒に獄寺くんが暴れないように(同時にこれで彼はダイナマイトを出せなくなった)して。
俺はぽつんと屋上のドアの前に取り残された。なにこれ。なにこの状況。要するに、さっき云ってた「一緒に昼食ってみたら」か……。

「(っ無理だよ山本!気持ちは嬉しいけど俺苗字さんとはあんまり話したことないよ!確かに苗字さん、のこと、同じクラスになってから、ずっと、き、気になってたけど……でもさっき確かに苗字さん俺のこと「カッコイイ」とか云ってくれたけど!でも……!)」

……あぁ、考えてても埒があかないか。教室に戻ったりしたら山本たちの気持ちを無駄にしちゃうことになるし。それに、もう二度とないかもしれない。……うん、大丈夫、だよ。なにが。いやわからないけどなんかもう行っちゃえ!!!!!!

ガチャリ。屋上のドアが開いた。その先にはフェンスに寄りかかっておでんを食べてる苗字さんがいた。俺には気づいてない。ドキドキする。彼女を眼にしただけで心臓がおかしくなった。なんだこれ!あぁぁもう駄目だ!いやでも引き下がるな。ドアは開けられた。だから次は歩いて彼女の傍まで行ける。脚を動かす。どうやら空は青いらしい。快晴みたいだ。彼女は、苗字さんはこの空みたい。深い青とか、大きな広さとか、そんなとこが苗字さんみたい。
ほら、傍まで行けた。まだ彼女は気づかない。傍まで行けたんだ。だから次は。


「はんぺん好きなの?」





始恋。


彼女はそのあとはんぺんを真っ二つにして驚いて、俺を見上げた。その反応にびっくりして焦ったけど(今ので嫌われたんじゃないかとか)、俺の名前を呼んだ苗字さんの声が思ったより明るかったから安心した。苗字さんはしばらく俺の手元を見て当初俺の目的だった「一緒に昼を食う」の誘いをしてくれた。
少し彼女の頬っぺたが赤いのは、やっぱり期待しても良いのだろうか?


(そして俺は嬉しくて)
(「うん!」とわらって云ったのだ)



終。
純恋。
(08.1.19)
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