みんなはちゃんと彼の中身を知らないのだ。本当はすっごく優しくて本当はすっごくカッコイイ。そして仲間思いで、強いんだ!
ねぇ、ちゃんと見てよ!

「沢田くんを!」








屋上の風が一瞬強くなった。きっとこれは私の気持ちの強さが風に伝わったんだよ凄いな私!そう自画自賛して、目の前の友達に向けていた眼を空にうつす。真っ青な、広い空PM13:00!今日は快晴、気持ち良いのだ!

「名前さぁ、なんでそんな沢田なわけ?もっと周りを見なよー」

気持ちよく伸びをしていたらそんなことをぼやかれた。友達はお昼のお弁当をもう食べ終えデザートのチーズタルトを堪能している。ちょいとお嬢さん、チーズタルトより私の話を訊いてくださいよ!

「なんで?沢田くん素敵じゃないのさ!」
「馬鹿だなぁ、沢田を見たときに眼に入らないの?獄寺とか、山本とか!良く良く見たら笹川先輩だってスポーツマンでカッコイイし。」
「まぁ、うんそうだねぇ」
「ああーなにこの子ぉなんでこんな!(沢田以外はなんでもない、みたいな顔しやがった!)」

わけわからん!とまたぼやかれた。
なんすか、なにがいけないんすか!私は屋上のフェンスに、コンクリートに座ったまま寄りかかった。ガシャ、と緑色(エメラルドグリーンの方が合ってるかも)のフェンスが云うのも気にせず、そのまままた空を見た。彼は、空に似ている気がするのだ。底の知らない深い青色。あお色。そして限りを知らない広さ。ひろさ。彼の心は空に似ている。そんな気がする。

「……私だけですかねぇ」
「あんただけだよ」
「……へぇー。」
「逆にチャンスだけどね」
「……?チャンス?」

視線を上から下へ、友達へうつした。私の真ん前でチーズタルトを食べ終えた彼女は手についたチーズタルトのカスを払いながら、ニヤリ、笑った。

「沢田綱吉を狙う物好きなんかあんたくらいだよ、だからライバルのいる確率はほぼ0パー!やったねぇ名前!」
「……あ、はぁ。」

喜んで良いのかわからないけどとりあえずちょっと恥ずかしかった。「狙う」だなんて、なんだかサバンナのチーターみたい。(サバンナにチーター居たよね、あれ?)私は彼のゆったりな雰囲気が好きなんだ。だから「狙う」より、なんだろ、……沢田綱吉くんを「想う」?うわ、闘争心がまるで無い台詞だ。渇いた笑いが口からこぼれた。そんなとき友達がすっくと立ち上がった。

「じゃあアタシちょっと用事あるからお先ー」
「どうりでお昼早かったわけだね、わかったいってらー。そしていただきます」
「あんたは沢田を語りすぎ。早く食べないと5限遅れるからねーそれではっ」
「べ!別に語ってなんか!って、いない……」

友達は私の意見を訊かずに屋上を後にした。あいつめ……!と怒ってみるも特に長続きもせず私はコンビニのおでんを食べ始めた。朝買って今では冷めてるから保健室でチンさせて貰った。あたたかい。あぁ大根美味しいんだー!出汁が染みてて最高だわ!ひとりで堪能していたら屋上のドアが開いた気がした。少し気になったけど構わず次のおでんの具を選ぶ。次は、えぇと、そうだコレ食べよう!はんぺ、


「はんぺん好きなの?」


ぐしゃ。
はんぺんは割り箸の圧力に耐えられずに真っ二つに割れて出汁の中にポチャンした。驚いた。驚いて声のした方へ顔を向けた。そこには、少し焦ってる、


「さ、沢田くん」


が、いた。彼は立ったまま、少し上体を曲げておでんの中を覗いてるような体勢でいた。そして私がしでかしたはんぺん真っ二つに割って出汁にポチャンに、若干引いてるのかなんなのか。うわ、やっちゃった。というかいったい、いつの間に。考えてさっきのドアが開いた気がしたのを思い出す。あぁ!さっきのは沢田くんだったのか!いろいろパニックになっていると沢田くんがお弁当箱と箸を持っていることに気づく。あ、これからお昼なのかぁ。……じゃあ。


「一緒に食べ……ません?」


「食べよう!」と云おうとして途中で自信をなくす。あぁなんか恋してるって感じがした。すると彼はちょっとびっくりした顔をしてなんでか頬っぺた赤くして、そしてわらった。


「うん!」





純恋。
(このあと3回はんぺんをポチャンした!)



終。
始恋。
(08.1.19)
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