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普通科クラス





『新入生代表挨拶…轟凪』

名前を呼ばれ壇上に上がる。数百名以上の人たちに向き合う、その中に兄の姿はない。
彼だけでなく、所属してるクラス全員が居ないようだ。騒ぎになっていないので問題が起きているわけではないだろう。
そう結論に至り、懐に入れていた紙を取り出した。
一つ息を吐いてから文面を読み上げ始める。
「暖かな春の光に誘われて桜のつぼみも膨らみ始めた今日の良き日…」
練習は何度もした焦る必要はない、そのおかげか会場の所々で起きている話声が耳に届く。
―轟て…
―あの子…エンデヴァーの…
―…でも何で普通科?
(聞こえてるっつーの)
式の最中なんだから、先生も注意してよ。そう思うが表には決して出してはいけない。大丈夫こんなこと今までだってよくあったじゃないか。気にするなそう自分に言い聞かせた。
あぁ、イライラする。

「共に学ぶこの仲間たちと共に、一歩一歩確実に立派な大人になれるよう精進していきたいと思います。
先生、並びに来賓の方々、温かくそして時に厳しくご指導していただきますようお願いします。新入生代表轟凪」

問題なく終え一礼をした。パラパラと送られる拍手の中、自分の席に戻る。その短い道のりのにも行く時よりも少し増えた好奇の目線を感じた。
(早く帰りたい)
姉の入れてくれた暖かいお茶が恋しい。
グラウンドの方から爆音のような音が聞こえた気がした。

*
―キーンコーンカーンコーン―
どこの学校も同じようなチャイムがなる。
自分のクラスであるC組の担任は詳しいガイダンスなどは明日行うと伝え先ほど扉から出ていった。
周りの同級生もがやがやと席を立ち家路につき始めている。
自分もさっさと帰りたいのだが、朝の焦凍との約束があるのでそうもいかない。携帯を取り出し彼にメッセージを送った。
【終わった。】
数分もしない内に既読のサインがつき返信が来る。
【着替え終わったらまた連絡する。】
兄は入学初日から何をさせられていたのだろうか。ヒーロー科は自由だなと思いながら【了解】と返事を返したところで、目の前に影が落ちた。
何だろうと思い携帯から目を話して顔を上げると、紫の髪色をした男子が立っている。
「何か…」
「あんた、エンデヴァーに子供ってのは本当か?」
用ですかと聞くのを遮ってぶっきらぼうに彼はそう私に質問をしてきた。まるで品定めでもしているかのようなその雰囲気に少しカチンとくるが、平静を装って、そうだと返す。
「ヒーローの子供が特待生ね…」
独り言もとれるくらいの音量の声でそうつぶやくコイツの言いたいことは何となくわかった。
「何が言いたいの?ハッキリ言ってくれないとわからないな」
平常心平常心と自分に言い聞かせる、式での事もあり正直結構限界まで来ていた。にこりと上げていた口角の端がヒクりと動く。
「いや、本当に実力で特待生になったのかと疑問に思ってな」
数年ぶりの特待生らしいから俺だけじゃなく他の奴らもそう思っているみたいだ、そう言って彼は周りに眼をやった。
教室に残っていたクラスメイト達が私達の会話が聞こえていたようで、ちらちらと様子をうかがっている。

あぁ、本当にイライラする。

バンッと机に握っていた拳を叩きつけてる。一瞬にしてザワザワとしていた教室が静まり返った。
はぁーと深く長くため息をついて男子を見上げる。
「聞きたいことはそれだけ?つまり」
私が親の七光りを使ったじゃなかって言いたいんでしょ?。彼は私がこんな行動すると思っていたなかったようで眠たげな眼を少し見開いていた。
叩きつけた手からパキパキと音がする、きっとわずかに個性が発動しているんだろう。手が冷たいのに頭と腹のあたりがグラグラにと熱くなっているように思えた。
「馬鹿じゃねぇの」
私が本当に親の力を使うなら、もっと賢い使い方をする。普通科じゃなくてヒーロー科にねじ込んでもらうし、特待生なんて面倒くさいものに何かなってない。特待生の条件知らないわけないよね?そもそもこんな誰がみても解る事に使うわけがない、浅はかすぎるでしょ。
「君がどうして初日からこうも突っかかってくるのか知りたいとは思わないけど、物のきき方は覚えておいた方がいいよ、そもそも自分の名前くらい言ってからにして。」
そこまでまくし立て、やっとハッと我に返る。

やってしまった。サーっと血の気が引くのが良く解る。
いつも焦凍の事すぐ熱くなるなとか色々言っているのに、自分はこの有り様、これはない、恥ずかしい。
そもそも初日からクラスメイトとの溝を深めてどうするの。それこそ浅はかな行動じゃないどうしよう、まずは謝らないとそう結論に至りごめんなさいと口を開こうとしたら。
彼の方が先に頭を下げてきた。
「悪い」
不躾すぎた。そうバツが悪そうにしている様子はさっきの態度はどうしたのと聞きたいくらいだ。
呆気にとられたけど私もこちらこそごめんなさいと謝る。
「心操人使だ」
そう彼は名乗ると自分はヒーロー科に落ちて普通科に来たと教えてくれた。彼だけじゃない全員と言わなけれど殆どの生徒がそういう経路で普通科に入学しているらしい。
私の様にもとから普通科志望は珍しいことでこれまでの特待生もほぼヒーロー科から出ているようでとても不思議に思われていたそうだ。
本来、優秀な学力、実技力を兼ね備えた人に対してが多いみたいだからそれは変に思われるだろうなと納得がいった。
「そうなんだ、知らなかった」
「だから、変に勘ぐっちまった。」
私の場合は、中学までの成績と、試験での成果あとこれまで受けてきた模試の成績によるほぼ学力の方面での成果で貰ったもので、油断しようものならすぐ外されてしまうわりと綱渡り状態だ。それに特別に出される課題なんかもある、知ったときは嫌だと思ったけどその代わりの全額学費免除、もろもろの必要経費免除は魅力的だった。
双子だとこういう時の出費が普通の所の倍になるのでこれに乗らない手はない。
「私も結構失礼なこと言ってごめんなさい。」
あとお騒がせしました、と周りのクラスメイトにも頭を下げる。すると気にしないでとかこっちこそごめんねとかじろじろ見すぎたと謝罪の声が聞こえてくる。
ヒーローを目指していることもあって、皆良い人たちばかりでよかった。
ホッと安堵の息が付くすると携帯が震え焦凍からのメッセージが入る。
【もうすぐ終わる】
玄関で落ち合おうと送り、鞄を持つ。
「じゃあ私もう帰るね」
また、明日からよろしくと心操に挨拶をして席をたつ。
教室を出る所でそうだと思って彼の方に振り返った。
「知ってるかもしれないけど私さ双子の兄妹がいるんだ」
「あぁ、ヒーロー科に兄貴が居るんだろ」
「うん、だからもし、心操の言っていたのが本当で」
私の家が親の権力とか使ってるとしたら、そこですこし言葉に詰まった。でもわかりきってる事じゃないそう言い聞かせる、もしかしたらと思う気持ちに蓋をする。
「絶対私じゃなくて、焦凍に使ってるよ。」
多分あの人あんまり私に興味がないから、それだけと言って今度こそ教室を後にした。

父は私に興味がない。
今朝姉はみんな心配なんだよと言ってくれたけど、正しくは父親以外の家族の事だ。
「いけない、うじうじしない」
自分で言ったことに落ち込んでどうするんだと、パンと両手で頬を叩いて喝を入れた。
「頑張れ、轟凪。」
これからだぞと自分に言い聞かせ、玄関へと足をはやめる。
そこにはもう焦凍がまっていた。
「遅かったな」
「クラスの人と話してた」
そうか、そう二人並んで道を歩く。どうして着替えていたのかと聞いたら、体力テストをしていたらしい。入学式に出ないでやる事がそれなのと言わずにはいられない。
雄英の、ヒーロー科の自由さに驚きを隠せない、どうだったのかと聞くと何と女子が一番だったらしい。どんな個性の子なのかと問うと、しばらく考えてから、
「なんか色々出てきてた」
もっと他に言い方なかったのかなと自分の兄の語彙力が心配になった。
「明日からが高校生活の本番だね」
「そうだな」
「ちゃんとクラスの人と仲良くしなよ」
あぁと随分時間がたってから焦凍は言った。少し面倒くさいとか思ってるんだろうな、中学の時もほとんど友達作ってなかったから、高校からは普通の高校生らしく楽しく過ごしてほしいなと妹なりに思うのだけど前途多難ぽい。
どうしたものだろうと本日何度目になるかわからないため息を付いていると焦凍からの視線を感じる。
「どうしたの」
「凪は、なんだか楽しそうだ」
きっと良いクラスなんだな、安心した。そう言って焦凍は前を向く。心配していたのは私だけじゃないようだった。

「うん、皆良い人たちだった。」

「こういう所が兄妹なんだなぁ」