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ーー…、……♪ーー

砂漠を歩む旅人が口ずさむ旋律が空へと昇る。
軽やかに、鮮やかに奏でられるその音はこの国では聞き馴染みのある有名な歌の一節。
国を空を、そして民を尊ぶその歌を旅人は紡いでいた。
その足が進む先に見えるのはこの国の王宮。
太陽に照らされた白亜の城壁が美しく輝いている。
「元気にしているかな。」
旅人はその風景に目を細めた。
砂を含む風が髪を揺らす。その間から見える、黒い二対の角が輝いていた。

ーー…、…♪ーー

旋律が空へ空へと昇っていた。
これは遠くて近い未来の光景。




長閑な海に浮かぶのは羊の海賊船。

「もう追ってこねェな海軍の奴ら…」
「「「んー」」」
「突き放したんだろ!?」
「「「んー」」」
海軍の追手を無事に振り切った彼らはほぼ全員が虚脱感に襲われていた。
ビビとカルーの別れに寂しいと泣き崩れるルフィ達。
仕方のないことではある。
数々の島をともに冒険した仲間との別れはこれが初めてなのだから。
いつもの様に話を振ろうとしてもそこに彼女達はいない。もうこの船に居ないと事を各々が改めて実感したのだろう。
「そんなに別れたくなきゃ、力づくで連れてくりゃよかったんだ」
メソメソとオノマトペをいつまでも奏で続けるルフィ達。その仲間入りをしていないゾロがそう言うと返ってくるのは野蛮人やらマリモといった罵詈雑言。
ゾロは対応するのも馬鹿らしくなったようで、好きなだけ泣いてろと呆れた様に息を吐いた。時間が経てばそれぞれ消化する事はできるだろう。それなりの経験をしてきている奴らだ放っといても問題はないと判断した彼は別の場所で転がってる人物の方へと足を運んだ。
「おい、シロ」
船首のあたりに転がる小さな塊。通称、ごめん寝のスタイルで蹲るシロは先ほどからピクリとも動かない。
「シロ」
返事はない。軽く肩を突いてみるが動かない。
あの薬のせいで具合が悪いのかと微かに見える額に手を当てるが熱はないようだ。
「腹でも痛いのか」
「…痛くない」
「寝ぃなら部屋にいけ」
「…眠くない」
ぽしょぽしょと返答は返ってくるが一向に顔を上げる様子はない。こいつも放っておくのが良いかと思うが時折唸るような声は上手く体を渦巻く感情を消化できていない事感じさせる。
「あのな、シロ。ルフィ達みたいにビービー泣くのは悪い事じゃねぇ。その方がスッキリするだろ」
「…泣かないもん」
予想外の返答だった。
だって、これはビビが決めた自分のやりたい事なんだ。とってもとっても嬉しい事だから喜ばなきゃいけない。応援してあげなきゃ。
でも…。
「でも?」
「今頑張れって応援できない。自分は悪い子だ。ビビ達の事ちゃんと嬉しいって思えない悪い子だ」
どうしようゾロと紡がれる声にいつもの明るさはない。落ち込んでいるがルフィ達とシロの違いは、前者はうちに渦巻く感情の元がわかっている故の落ち込みだが、後者は元のが何なのか感情に対しての学習ができでいない。それはシロがまだ幼いと言うことと。
生い立ちから人間的感情なんて部分が十分に育成されてきてはいない事が原因だ。ドワーフのところにいた頃にはあっただろうが、そこから大きなブランクがある。
彼らによって発芽したであろうそれは芽の侭で止まっていたのだ。それがこの船に乗って漸く成長しだしたところで言うなればシロはまだまだお子様なのである。
嬉しいと寂しい、悲しいが同時に起こると言うことを知らない。だから、仲間の向かっていく夢に対して嬉しいと思うが自分たちと別れてしまうのは悲しい、寂しいと思った己に混乱し、ビビに対して罪悪感を持ってしまった。

「別に悪くねぇだろ、人間そんな単純じゃねぇぞ」
「…んぇ?」
漸く顔を上げたシロはゾロの言ってる意味がわからないのだろう首を傾げた。
「ビビ達がやりてぇ事ができるようになって嬉しいんだろ?でその結果俺たちと別れる事になって寂しいんだろ。いいかシロ。嬉しいて言うのと悲しいて言うのは同時に起きることもあるんだ」
「どーじ?」
「あれだ甘い味と辛い味が入った飯と同じだ。クソコックがよく言ってるだろ飯はそんな単純なもんじゃねぇって、それと同じだ。甘辛いと一緒」
「甘辛いと一緒」
ゾロの説明は正しいものかはこの際置いておくことにする。上体を起こしたシロは胸のあたりを撫でながら甘辛いと繰り返し呟いたあとにあのねと言葉を吐く。
「ビビとカルーのこと応援してるの、嬉しいの」
「おう」
「でももっと一緒にいたかったの」
「おう」
もっと一緒にご飯食べたかった、お風呂に入りたかった。御本読んでお絵描きして、お昼寝もしたかった。沢山お話ししたかった。やりたい事まだ沢山あった。ずっと仲間なのは変わらないけど。それができなくて、もう一緒に冒険できなくて
「さみしいよォ…すっごくざび、ざびじぃ…うわぁぁあああああん」
甲板の板に大粒の水滴が落ちていく。ゴシゴシと乱暴に涙を拭うが頬を伝うそれの勢いには追いついていない。終いには鼻水も垂れてきて酷い有様だ。
先ほどまで静かに罪悪感を抱えて己を責めているよりは良い。泣くという行為が慣れていないようでシロはゲホゲホと咽せだしてしまう。
その背中を撫でてやるとそのまま彼女はゾロにしがみついた。耳元でわんわんと泣かれ、鼻水と涙で肩あたりが濡れてくるが一先ずそのまま離す事もせずに立ち上がる。

「えぇぇえ、うぇぇえんわぁぁあああん」
「おい、そのままでいいからそれ以上、首を絞めるな、息ができねぇ」
「ぶえぇぇぇぇ。ぇえぇ…」
「声にバリエーションありすぎだろ」
「ヴヴぅうぅ…えっ…うぅ」
回した腕を緩めるがシロはまだゾロから降りるつもりははないようで、しがみついたままズビズビと鼻を啜っている。少しは落ち着いた様でこの様子ならそのうち寝落ちしていくのだろうと予想していた。
するとゾロの背後のにあった扉が音を立てて開く。
自分とシロを入れこの船の船員は全員甲板にいるはずなのに。
おかしいと気がつき、ゾロがそちらを見た時にはその扉を開けた人物が太陽の下に出て来ていた。

「やっと島を出た見たいね…ご苦労様…あとおチビちゃんは泣き止みそう?」
この船にはない落ち着いた声、切り揃えられた黒い髪が艶やかに日光に浴びて輝いている。
阿鼻叫喚の彼らの様子に動じる事なく、己に向けられた武器を嗜めるように生やした腕ではたき落とす。
「そう言う物騒なもの私に向けないでーって前にも言ったわよね?それに貴方、おチビちゃん抱えているのだから危ないでしょ」
駄目じゃないと畳まれたベンチを広げて腰を下ろすのは誰も想像もしていなかった人物。
今まで戦っていた敵側、BWの副社長。
ミス・オールサンデー基ニコ・ロビンがそこに居た。

んぐぅ…ぐぅ
この雰囲気で寝落ちすんのかお前は
ふふふ…可愛いわねぇ