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45


ーーー国王、何を書いてらっしゃるのですか?
ーーー唄を書いているんだ。
ーーー唄ですか?
ーーーあぁ、雨の唄をね


晴天。
清々しいほどに空は青くて、そして広かった。
ビビはマイクを手に取る。

時計台の針はまもなく12時を指そうとしていた。



「チョッパー!もうこっち手が追いつかないよ!」
「頑張れシロ!ルフィ達がなんとかしてくれる筈だ!」
ジャボジャボと打ち込まれた黒い槍の隙間から入り込んでくる海水をなんとか食い止めようとチョッパーとシロはひたすらに釘と板を持って走り回る。
何としても12時までに東の港に向かわなければならない。回り込む時間もなくひたすらに進み続けるメリー号の行手を海軍が阻んでいた。
「チョッパー!シロ!次が来る!衝撃に備えて!」
甲板にいるナミの声が聞こえると同時に次の攻撃がメリー号を襲い、船は大きく揺れる。その拍子にシロはバランスを崩して転倒してしまう。バチャリと浸水し始めている床に倒れた彼女に向かって積れていた積荷が落ちてこようとしていた。
あ、避けられないと思ったシロは手で頭を守る。
ポンッ。
ドサァ。
「…?あれ?」
だが、待てども積荷が自分に落ちてくることがなく顔を上げると。シロの直ぐ傍に積み荷が転がっていた。
「何で?」
どう考えても落下位置は自分の真上だったそれがどういう訳か横に転がっている。シロは不思議そうにあたりを見回すが何も無くますます謎は深まるばかりだった。
「シロ!大丈夫か?!」
「大丈夫、チョッパー。転んだだけー」
「そっか気をつけろよ。ちょっとこっちに来れるか?!」
「直ぐ行く!」
今は穴を塞がなければとシロは立ち上がりチョッパーの方に駆け出す。が、一度止まり振り返ると何もいない場所に向かって一度お辞儀をした。
「ありがとう」
そこにはただ積荷が転がっているだけだがシロはよしと満足そうに頷くと今度こそチョッパーの元へと走っていった。

「……」
彼女が見ていた場所の近く。そこに居た人影か微かに動くが誰も知ることはなかった。




「仲間を迎えに行くんだ!!」
その言葉に感銘を受けた男が何か覚悟したかのようにある作戦を全員に告げる。彼の作戦はとてもシンプルなものだった。自分が囮となり麦わらの一味を逃す。
ただそれだけの事だ。
「さぁ行きなさい!友達の為に!」
ルフィの顔を真似た男がそう叫ぶ。この方法ならばきっと時間通りに東の港に辿り着くだろう。
しかしそれは…
「ボンちゃん、捕まっちゃうよ」
「良いのよおチビちゃん。だってあちしは…麦ちゃんの友達だから!囮だろうが何だろうがやってやるわよう!……おチビちゃんあんたも元気でね」
悪かったわね、色々と。
男はシロの頭を一度撫でる。そして麦わらには似ても似つかない帽子を被って船の進路を変えて進み出した。
彼の行く末を甲板の縁に走って見守る。
「ボンちゃーん!」
見事に囮の役目を果たした白鳥は水面に立ち登る爆煙の中を進み続けていた。ナミが懐中時計を見てメリー号を東に進めるように告げる。
黒煙の中にいる白鳥がどんどん小さくなっていく。
「ボンちゃん!おれ達お前らの事絶っっ対に忘れねェからなァ〜〜!!」
「ボンちゃんありがとー!」
その散っていく白鳥の姿にシロやルフィは涙を流して手を振った。

ーーーーーーーーーーーーーーーー
時計の針が頂上を指し示す。
ビビは傍に寄り添う愛鳥の方を見る。クェと鳴いた彼は恐らく自分と同じことを考えているのだろう。
「少しだけ……冒険をしました。それは黒い海を渡る”絶望”を探す旅でした…」
ビビの目の前には広い海原が広がっていた。
海は彼女がここを飛び出したあの日から何も変わらない漣を打っている。
「国を離れて見る海はとても大きく…そこにあるのは信じ難く力強い島々」

ー見た事もない生物
巨人が居た、竜の子供がいた。
ー夢とたがわぬ風景
雪の中大きな桜はきっと忘れない。
短くて、驚くほど長い長い旅だった。その中で見たものをビビはきっと忘れないだろう。手探りの中進む旅の中で彼女が見つけたのは、小さな船だった。
その船は決して進むべき道を間違える事なく航海を続けていく。迷いもなく逆風に吹かれても波を超え。
ーそして指を指します。

『見ろ光があった』

「ビビ、お話ししてるね」
拡声器から聞こえてくる声は間違いなくビビのもの。それが聞こえると言う事は彼女はアルバーナの広場にいる。
そう分かってはいる。理解もしているがシロとルフィは諦めきれないでいた。
時計の針が頂上を超える。

「探しちゃダメ?」
「降りて探そうきっといる!」
諦めきれないルフィとシロだったが、海軍の追手が再び現れた。ボロボロのメリー号には海軍の攻撃に耐えることはもうできない。
「船を出すぞ!面舵!!」
「諦めろルフィ…おれ達の時とはワケが違うんだ。ほら、シロちゃんも」
危ないから船内に行こうと差し出された手を掴もうとした。
その時、波打つ空色がシロの視界に入り込む。
「みんなァ!!!」
「せんちょー!ビビだ!」
ビビがいるよ!と、シロの指差す先にいたのは紛れもなくビビ本人で。正装をした彼女の姿にシロはお姫様みたいだと思った。
船を戻そうとしているルフィ達に彼女は告げる。
「お別れを!!!言いに来たの!!!」



『私は…一緒には行けません!!!』
ネフェルタリ・ビビは海賊ではない。
『今まで本当にありがとう!!!』
彼女は、お姫様なのだ。
『冒険はまだしたいけど、私はこの国を』
アラバスタの、この砂の国の
『愛しているから!!!!』
たった1人の優しいお姫様なのだ。

『ーだから行けません!!!』
目から溢れる涙を拭う。
その手には記号があった。
『…私はここに残るけど……!!!』
それは他の者から見ればただの記号にしか見えないだろう。

ーいつかまた会えたら!!!もう一度仲間と呼んでくれますか!!!?
「ビb…!」
「いつまでもなk…!」
「バカっ!ルフィもシロも返事しちゃダメっ!!」
メリー号のそばには海軍がいる。彼らもビビの存在には気がついているに違いない。
ここでシロ達が返事をしてしまえば
「ビビは”罪人”になるわ」
黙って別れる。それしかなかった。
シロ達の左腕にもあるその黒い記号。それには意味があった。
ビビと彼らの間にだけあるとても大切な意味。
「シロ、左手を掲げろ」
「わかったせんちょー」
彼らは腕を掲げた。
シロはそれを書き込んだ日の事を思い出す。

ー印ならバツがいい!!
ー何で
ー海賊だろ
ーでもありゃ本来相手への死を意味するんだぞ
ーそうなのかー

偽物を判別する作戦の一環だった。

ーいいんだバツがいい!
ーなァビビ、シロかっこいいもんな!!
ーうん私もそれがいい
ーせんちょーにさんせー!

互いに互いの腕にその記号を刻んだ。

ービビのは私が描いてあげる!
ーふふ、ありがとうシロさん
ーこれでよし!
ーこれから何が起こっても左腕のこれが

「せんちょー見えてるかな」
「見えてるさ」
「ビビ達も腕揚げてるかな」
「当たり前だろ」

ー仲間の印だ

「おれ達の仲間なんだから」

いつかまた会えたらこの唄を一緒に歌おう。みんなできっと