つきろぴです
派生キャラ扱いのため性格捏造です






人間なんて信じたら駄目だなんてことは分かっていた。いろいろ経験して、そう学んで殻を作った。だけど、何度でも同じ過ちを繰り返しては殻が割れて傷ついて、これ以上傷つかないようにさらに頑丈な殻を作り出す。でも、その固い殻が割れたときにその破片が痛いのは自分自身で。
殻が割れたのは、何回目だろう。よくわからないけど、壊れる度に強度ができ、その痛みに慣れる自分がいた。

「泣いてるの?馬鹿だね、君も」
ああ、俺は馬鹿だ。分かってるから、言わないで欲しい。まだ、俺を守る殻は壊れたままだから。俺を傷つける発言をした張本人は肩を竦めて笑っていた。俺だってこの男の噂を聞いてなかったわけじゃない。人を欺き、絶望の淵に立たせ、その感情を見て楽しむような人間だと知っていた。だけど、自惚れた。同じ顔の俺に危害を加えるようなことはしなかった。優しくしてくれた。

「もう、来ない」
うまく声を出せなかったけど、顔がニヤリと歪むのを見て聞こえたのだと確信した。
一歩、もう一歩と足を動かす。早く逃げ出したかった。俺が自分に従順になっていくのを見て笑っていたのだろうか。それはもういい。ただ、一緒に笑ったことさえ嘘だと言われたようでショックだった。ほら、やっぱり人間は信じてはいけない動物なんだ。


無意識のうちに、街に出ていた。肩をぶつけてしまった人も、すれ違った人たちも、みんな俺をあざ笑っているような気がした。そこの女子高生は俺の馬鹿げた茶番の話をして、スクリーンに写る芸能人は聖母のように微笑んで俺を見下す。

「馬鹿だなぁ…」
上を向いて歩いていたら、躓いてこけてしまった。通りすがる人は誰もが俺のことを無視して、立ち上がったらいけないような気がしてその場にうずくまった。

「大丈夫ですか?」
聞いたことがあるような優しい声音に、恐る恐る顔を上げると、見たことのある顔が眉を下げて心配そうに俺を見ている。

「…シズちゃん?」
「へ?いや、俺は月島ですけど…」
そっくりだった。声も見た目も、瓜二つだ。世の中にこんな珍しいことが何度もあっていいものだろうか。大丈夫ですか?歩けますか?優しく問いかけてくる月島という男に、冷たく断りを入れ、立ち上がる。

「っ、」
転けたときに捻った足首が想像以上に痛んで、ふらついてしまった。みっともなく何かにしがみつこうと腕をのばすと、腕どころか体まで支えられてしまった。

「足、ケガしてるんですね」
ひょい、と軽々抱え上げられると全然知らない方向に向かって歩き出す。

「ちょっと!降ろせよ!」
「いや、でも歩けないですよね?俺の家近くにあるから、手当しますよ」
やめろやめろと肩を叩いてもびくともしなくて、やっぱりシズちゃんにそっくりだった。これだけ暴れてるのに、むしろ心配そうに頭を撫でられて居たたまれなくなって動くのをやめた。

「あれ…?」
「…なに」
「家が何処か分からなくなりました」
言葉を失った。近い、と言いながら10分以上経っているのに着かないなぁとぼんやり考えていたら、信じられないことに自分の家が分からない…?ため息をつくと、本当に申し訳なさそうに「すみません」と言われた。

「住所は?」
「え?」
「じゅーしょ。お家の場所。」
慌てて、ちょっとどもりながらアパートの名前まで伝えてくれた。ここらへんなら地理はわかる。言っていた場所は先ほど通り過ぎた場所で、頭が痛くなった。

「さっきの薬局の角まで戻って」
「え?分かるんですか?」
声は出さずに、早く早くと急かすように背中を叩いた。


「はい、できましたよ」
俺の足に湿布を貼り、ご丁寧に包帯まで巻いてくれた。俺が案内するとすぐに家に着けた。鍵を開けて中に入ると、この人は真っ先に案内の俺を言ってきた。助けられた側が助けた人に「ありがとう」と言われるのは酷く奇妙な感じがする。しかも、見ず知らずの俺をベッドに座らせて自分がひざまずいて手当をしてくれた。

「変な人」
そう呟くと、救急箱をなおしながら不思議そうに俺を見つめ「何でですか?」と言った。

「あんた、俺のこと悪い人かもしれないって思わないの?簡単に家、教えていいの?普通の人ならここまでしないよ?」
脅すように睨むと、そんなのなんてことないかのように優しく笑い俺の頭を撫でた。

「たぶん、悪い人じゃないと思ったから。」
その全く邪気のない顔に、毒気を抜かれた。それと同時に悲しくなった。俺は、悪い人じゃないかもしれないけど、良い人でもない。人間なんて、信じちゃ駄目だ。簡単に裏切るのに。頭に置かれた暖かい手を振り払うと、片足だけで立ち上がった。

「あ、駄目ですよ!悪化したらどうするんですか!」
横を通り過ぎようとしたら、腕を引っ張られバランスを崩してベッドに逆戻りした。正直、今は足より引っ張られた腕が痛い。

「俺の仕事終わったら、家まで送ります。あと、アンタじゃなくて月島、って呼んでください。」
また頭を撫でられて、その感触に目を閉じた。今まで誰かにこうして貰ったことあったかな。よく覚えてない。でも、こうして安心した瞬間に突き飛ばされるのかもしれない。もう誰も信じたくないのに、こんな風に優しくされたら弱い俺は揺らいでしまう。嫌いだ、人間なんて。大嫌いだ、こんな弱い人間なんて。
離れていく手を引き留めるように声を出す。

「月島」
「どうしたんですか?」
名前を呼んだけど、撫でてくれた手はもう俺から離れてしまった。でも、俺から視線を外そうとはしない。

「別に送らなくてもいいよ」
「なんでですか?危ないじゃないですか!…あ、俺が悪い奴かもしれないって思ってます?そんなことないんで!安心してください!」
「違う」
俺が否定すると、ホッとした顔で笑いかけてくれた。

「俺、帰る場所、ないから」
そう言った途端、さっきの笑顔から一変して泣き出しそうな顔になった。ころころ表情が変わる人だなぁ。表情なんて殆どないような俺の代わりに、泣いてくれるのかもしれない。でも残念だな、俺は涙だけは流せるんだ。だから、

「笑ってよ」
恐る恐る頬に手を伸ばすと、自分からすり寄ってきてくれてふわりと笑った。その笑顔が俺の心の、俺でも届かないような奥の柔らかいところに触れるのが、心地いいなんて。まだまだ俺は弱い人間みたいだ。





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