恋人という甘い響きの関係になってからも喧嘩はよくした。卵焼きは砂糖か塩か、晩ご飯はどちらが作るか、何回電話しても出なかった、とかそんなどうでもいい理由で臨也と喧嘩しては家を壊滅状態にさせた。
いつもは、ある程度暴れたらどちらからと言うでもなく仲直りしていたのだが、今回は臨也のとある発言のせいで拗れてしまった。

俺が仕事中に女に抱きつかれたのを見たらしく、そのことについて「シズちゃんモッテモッテだねぇ、俺なんかじゃなくても女の子選り取りみどりじゃない?別に乗り換えてもいいんだよ。俺、怒らないし」とあのムカつく笑顔で言うからついため息をつくと「あ、今、俺のこと面倒くさいっておもっただろ?あは、シズちゃん本当に単細胞で馬鹿だねぇ。顔にめんどくせぇ、って書いてあるよ。そういうところが大っ嫌いなんだよ。そんなに俺が面倒なら他の女の子と遊んでおいでよ」と息もつかずに告げられ持っていたコップを粉砕した。
ちょっと面倒くさいと思ったのは事実だし、でも俺は臨也が好きだからこうやって家にいても何も言わないわけで。変な気を頼んでもいないのに使った挙げ句、付き合ってからはお互い言わないようにしようと約束したはずの「嫌い」という単語をご丁寧に大までつけて吐きやがった。さすがの俺もキレた。大いにキレた。
「ああそうかよ、じゃあ女と遊んでくるわ。あとなぁ、俺だってテメェのことが大っ嫌いだ。」と食卓を持ち上げながら言ってしまった。自分の家で暴れるのは気が引けるが、そんなのどうでもいい。コイツが悪い。いつナイフで切りかかってくるかと思っていたのに、臨也は片手で宙に浮いた食卓をポカンとした顔で見つめているだけだった。不思議に思って床に持ち上げたものを降ろして近づくと、顔を俯けて俺の横をすり抜け、早足で玄関に向かって歩いていく。

「おい臨也…」
とんとん、と靴を地面にぶつけて履くと玄関扉に手をかけてこっちに振り返った。

「しばらくは池袋には来ない。君にも会わない。思う存分女の子と遊んでおいでよ」
無表情でそれだけ言い残すと、静かに扉を開いて出ていった。

その夜から早一ヶ月。仕組まれてるんじゃないか?ってくらい仕事があって、会いに行こうと思っても行けなかったし、キレてしまったという負い目があるからなんとなく行けなかった。臨也も、宣言どおり池袋には一瞬たりとも姿を現さなかった。あいつも頑固な奴だ。
会えない寂しさとか、ムラムラとか、思ってた以上に俺はあのノミ虫が好きだったらしい。俺が折れてやるか、と仕方なく臨也のマンションを訪れた。
エントランスを壊さずに、きちんと部屋番号を押す。

『はい』
「あー平和島っす」
『あら、やっと来たのね、遅いわよ。早くアイツらをなんとかしてちょうだい。』
たしか…秘書だったか?その女が出て、すぐに鍵を開けてくれた。待ちきれずに階段を駆け上がると扉の前にさっきの声の主が立っていた。

「あーどうも…」
「どうも。はやくなんとかして。鬱陶しいのよ、特に臨也。」
「はぁ…」
「鍵開いてるから。じゃあ後はよろしく」

スタスタと去っていく後ろ姿を見送った後、意を決して扉を開いた。
「アイツら」ってどういうことだ?もしかして女を侍らしてるのか?そうだとしたら殺す。

覚悟を決め、靴を脱いで奥に向かうと、目を疑う光景が広がっていた。
「臨也が3人…?んで俺が二人!?」
「あ、平和島静雄!」
「え?」
たしかに臨也は4人も侍らしていた。でも女じゃない。全員男だ。どう見ても男だ。

「シズちゃん…なんで来たの?俺のこと大嫌いなんでしょ?あの時から俺大人しくしてたんだから、殴るとかやめてよね!帰りなよ!」
「そうだ!俺と臨也のラブラブランデブーを邪魔する事は許さねぇぞ!」
「デリックはちょっと黙ろうか、ついでに変なとこ触るな…ってば!ちょ、や」
「こら、臨也さんが嫌がっているだろう。離せ」
「デリックばっかずるい!サイケも臨也くんにひっつく!」
「みんな、落ち着いて」
「津軽マジ天使マジ仏!ほら離してよ」

まるっきり蚊帳の外だ。お前も鍋に誘われなかったときはこんな気持ちだったのか。悪かった、と少し反省した。
でも、許せない。この1ヶ月コイツらと楽しく過ごしていたのかと思うと絶対許せない。俺は、仕事から帰ってもいい匂いのするご飯にも臨也にもありつけず、狭い部屋に無理矢理入れた大きいベッドの上で一人で寝て、朝は携帯だけじゃ起きれず遅刻三昧。その鬱憤を仕事で晴らしたりしながら姿を探すものの、影も形も匂いも無い。そして家に帰ればエプロンで包丁片手に出迎えてくれる臨也はやっぱりいない。ムラムラもイライラも溜まりっぱなしの一ヶ月だったのだ。女なんか触ってもない。なぜ臨也という恋人がいるのに女とヤらなくちゃいけない?臨也よりいい女がいるのか、いやいない。
ここに来るまでは俺が謝って、許してもらって、あわよくばムラムラも発散して…と考えていたがこの状況を見てそんな考えは吹っ飛んだ。

「そもそもなんなんだよコイツら!」
「シズちゃんこそいったい何なの?」
「お前がいつまでも意地張ってるからだろ。いつになったら帰ってくるんだよ」
「帰るもなにも俺の家はここだし。ねぇ、津軽」
「あぁ」
俺の顔した着物男に俺に向けたことの無い、いうなれば聖母のような顔で微笑みかける。くそ、なんだよアイツ。
ずかずかと歩み寄って引っ剥がすと、臨也の顔した奴らが威嚇してきた。

「臨也さんに何するつもりだ!」
「乱暴だめだよ!」
「ああ分かってる分かってる」
そいつらも猫にするように首もとを掴んで遠くに投げた。ぎゃあぎゃあ喚いていたがどうでもいい。改めて臨也に向き直ると、今度は白いスーツを着た奴が臨也と対面座位の形で座っていた。入ってないよな、絶対入ってない。そうは分かっていてもコイツは一発殴らないと気が済まない。

「おいこらテメェ、そいつが誰のモンか分かっててそうしてるんだよなぁ?じゃあなにされても文句はねぇよな!?」
「俺のものだ。なぁ臨也?」
「だからセクハラやめろって!」
俺の目の前で臨也の尻や胸を撫で回すソイツに、臨也に当たらないように拳を繰り出すと、ひょいと避けられ、そのまま臨也をソファーに押し倒しやがった。





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