「デリッ…んぅ」
は?キスだと…?俺だってもう何日もしてねぇのに!!ん、とか、はぁ、とかエロい声が聞こえて唖然としてしまった。

「あー!デリック、臨也くんにちゅーした!!」
「おい、そこらで終わらないと馬の餌にするぞ。」
「臨也…」

後ろでなんだかんだ言っていたが俺の耳にはそこまでしか届かなかった。臨也にキスとか、これは殴っていいよな?殴り殺してもいいってことだよなぁ!?
「死ねぇぇぇぇぇ!!!」
「グハァ」
覆い被さっていた塊を蹴り飛ばし、臨也を抱き起こした。

「臨也、大丈夫か?」
「…」
「おい」
「離せよ!!」
鼻をグーで殴られ、臨也から手を離してしまった。おいおい、いくらなんでもこの仕打ちは無いだろ?臨也はというと、いつの間に取り出したのかナイフの切っ先を俺に向けていた。

「シズちゃん…俺のこと嫌いって言ったじゃないか!ならもう構うなよ!振られたショックでつい変な生き物と同居しはじめた俺を笑いに来たの!?別にいいだろ!この位許せよ!嫌いで嫌いでしょうがない俺と君の顔したやつがキスしてて気分悪いのは分かるけどさぁ。君だってどうせ女の子とセックスしてたんだろ!?俺は、俺は…」
急に臨也の双眼に涙が浮かび、カランとナイフが地面に落ちたと同時に臨也も地面にうずくまった。すると、後ろから大きな声で叫ばれた。
「臨也くん泣かしたぁっ!!」
もう何が起きたか分からなかった。泣き顔なんて見たことなかったし、俺が臨也を嫌い?そんな訳あるか!!

「おい臨也顔あげろ」
「やだ」
「ったく」
脇に手を入れて無理矢理立たせても、まだ顔をあげなかったので片手を腰に回し、もう一方の手で顎に手を添え上に向けた。

「本当に泣いてんのか」
「ほっとけよ」
「ほっとけるか!」
自分の胸に臨也の顔を押しつけギュッと抱きしめる。
「俺はテメェが好きだ。」
「…うっ」
なぜまた泣く!?

「臨也さんを泣かすなよ。ここ一週間、いやその前からお前のせいで朝から晩まで泣きっぱなしだったんだぞ。それ以上泣かせるようなことしたら、日々也の名において貴様を馬が食べる草の肥やしにしてくれるわ!!」
「臨也はな、お前が嫌いって言ったのをずっと気にしてたんだぞ。『あんなしょうもないこと言わなかったら』とか『嫌いなんて嘘でも言わなかったらよかった』とか言ってたし、いくら『大丈夫だ、問題ない』とフォローしてもお前はいつまで経っても来ないし。そろそろ潮時かと思って臨也を口説きにかかったら来るなんてよぉ!どんだけ空気よめねぇんだ!」
そんな可愛いところが臨也にもあったなんて。そんなことを知れたのは嬉しいがまず俺は別に臨也が嫌いなわけじゃないし、振ったつもりも無かった。あと、むかつくことにダウンさせたはずの白スーツ野郎が臨也を口説いていたという事実を聞いて、そいつを脳内ブラックリストに登録した。


「も、やめろよおおお!!これ以上俺に恥をかかすな!!お前ら黙れ!即刻黙れ!シズちゃんも『好き』なんて嘘つくなよ!死ぬ!むしろ殺せよ!今すぐ殺せ!」

さっきまで俺に思い思いの罵倒を叫んでいたそっくりさんたちは、その言葉を聞いて口をつぐんだ。
それにしても、大丈夫かコイツ。好きって言葉も素直に受け止められないのか。そういえば、付き合う前もこんな感じだった。「好きだ」「はっ、嘘でしょ?」というやりとりを何回繰り返したことか。なんとか信じてもらえて、晴れて両思いになったあともちょっと本気で怒ればすぐに黙り込んだし、ちょっと帰りが遅くなる度に浮気?と聞かれた。たぶん、コイツは人から貰う負の感情以外のものに酷く不慣れなのだと気付いた。だから、はじめて好きになってもらえた俺という存在から嫌われるのが怖かったのだろう。そして、好意に鈍感だからすぐに不安になる。そんな奴が、自分の恋人が誰かと抱き合ってるのを見たらどうなるか。そこからは容易に想像がついた。きっと、俺を試したのだ。そしたら「大嫌い」なんて言われたから、こうやって泣いているのか。

「泣くなよ」
袖口で涙を拭ってやると不快そうに眉をひそめた。

「そんな優しさいらない。」
「悪かった、嫌いじゃない。本当だ。」
「…」
「好きだ。大好きだ。」
「本当に?」
「ああ、愛してる」
そう言うと、やっと腰に手をまわしてくれた。
よかった…!俺が久々の感触に幸せをかみしめていると、今度は後ろから舌打ちが聞こえた。

「おお…あの無口で優しいはずの津軽が舌打ちしたぞ」
「いやぁ、まじでショックだよなぁ。せっかく傷心の所を付け込んでやろうとおもってたのによぉ」
「ああ、そうだな」

そういえば忘れていたが…
そっと臨也を離し、後ろを振り返る。

「そういやぁさっき俺の臨也にキス、しかもディープなのをした奴がいたよなぁ?おい逃げるな!そこの白い俺!」
リビングから出ていこうとしていたのを、首根っこを押さえて捕まえた。
「いやー嫉妬醜いですよ?平和島のお兄さん。男ならもっと広いこころでモルスァ!」
話してる途中で頭突きをかませば、変な声を出しながら壁にめり込んだ。ざまぁ見ろ、当然の報いだ。
「しばらくそこで埋まってろ」
俺の顔した奴が気絶して壁に埋まっているというのもシュールだな。面白い。さてと、

「臨也」
「なに?」
小首を傾げる姿はやっぱりかわいい。ナイフを持ち出したり包丁を振り回したり嫌いじゃないのに嫌いなんて言うエキセントリックな奴だが俺はコイツじゃないとダメだ。

「好きだ」
「…俺も」
「でもなぁ…」
「なに?顔こわい」
「キスはしちゃダメだよなぁ!?」
俺が一歩近づく度に臨也は青い顔で後ずさりする。ついにはソファーに尻餅をついた。うん、その怯えた顔も悪くねぇ。

「嫉妬よくない!実によくない!かっこわるい!」
「ほー。まぁアイツらのこととか詳しい話はベッドの上で聞かせてもらおうか」
ソファーに座り込んだ臨也の膝裏に手を入れいわゆるお姫様抱っこでベッドルームに向かう。臨也が助けて!なんて叫ぶから王子様ルックの奴が助けに来たが、一睨みすると「ごめんなさい臨也さん!」と言って逃げて行った。いい子だ。


その後ベッドの上で散々声を出させたが、結局アイツらの詳細はわからず仕舞いだった。まぁどうでもいいけどな。


今回の件でもう二度と喧嘩はしないでおこうと心に決めたのだが、またカレーは甘口か中辛かというしょうもないことが発端で喧嘩したのは言うまでもないことだ。










―――――
リクエストありがとうございました!いただいた素晴らしい設定が上手く生かせてないとか私バカなのアホなの(略)
ギャグ甘なのか?これは…と私も首を傾げております。鈍感臨也も嫉妬静雄も行方不明です。すみません…!こんなものでよろしかったら秋夜さんに…!どうぞ!
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