とまぁこれがここに至るまでの経緯だ。
とりあえず臨也をリビングに案内すると、急いで"臨也部屋"の鍵を閉める。よし、これで完璧だ。
リビングに戻ると臨也がソファーに座っていた。それを見た瞬間鳥肌が立った。臨也が俺の生活空間内にいる!夢か?これは夢なのか?
一瞬舞い上がったが、臨也が見ているものがよろしくなかった。臨也の手には、家をでる前に見ていたドラマのDVDがあり、それをまじまじと見つめていた。それは、数年前に月9に初めて臨也が出演したときのものだ。因みに主役は幽である。臨也の役は殆ど出番がなかったが、それでも業界の偉い人たちに認められ仕事をふやすきっかけとなった作品だった。
迂闊すぎるぞ俺!何を言われるかとヒヤヒヤしていると静かに声が掛けられる。
「これ、見た?」
「ああ」
平静を装い返事をする。お茶を出そうとカップを握ったのだが、手が震えている。
「幽くん、かっこいいよね」
「そうだな」
「他に誰が出てるか知ってる?」
その質問は…。言った方がいいのか?まだ臨也がどちらかと言えばマイナーだったときのものだし、名前を出したら気持ち悪いと言われるかもしれない。そう判断した。
「さぁ。幽しか知らないが、なんでだ?」
「…別に。聞いてみただけ」
そう言って少し乱雑にテーブルにDVDのケースを戻すと、ソファーの上に足をあげて三角座りをしだした。おいおいおいおい可愛すぎるだろ!三角座りとか!
なんとかコーヒーを入れて目の前におくと、臨也が不機嫌そうに顔を歪めた。

「シズちゃんのくせになんでこんなにいいコーヒー飲んでるのさ。」
「悪かったな。貰いモンだよ。」
なんて言ったが、実はこのコーヒーも臨也が雑誌でおいしいと紹介していたから買ってきたもので、お洒落な店に並ぶのは緊張した。本当は一杯だけのんで、苦くて置いておいたのだが、丁度よかった。

「あれ?シズちゃんは飲まないの?」
「コーヒーは苦手なんだよ」
「残念だなぁ。これ凄く美味しいのに。」
美味しそうに飲む姿になんとなく嬉しくなる。

「あ」
「?」
「これでカフェオレ作ったら美味しいんだよ。台所借りてもいい?」
「お、おう」
たたた、と軽い足音をたててキッチンに向かう臨也を目で追う。サイフォンの中に余っていたコーヒーをカップに注ぐと、冷蔵庫から牛乳を出して同じように注ぐ。
「砂糖どこ?」
「そこの戸棚」
顎で指し示すと、少し探した後にっと見つけ大きな入れ物を取り出し、中に入っていた砂糖をスプーン3杯分入れた。

「はい」
「さんきゅー」
ほんのり暖かいそれは、とてもいい匂いがした。俺としては臨也が入れてくれたカフェオレなんて貴重なものは写真を撮って飲めなくなるギリギリまで置いておきたいのだが、目の前でそんなことは出来ないのでそっと口をつける。

「甘ぇ」
「シズちゃん甘いの好きでしょ?将来は糖尿病が心配だね。」
軽口をたたく臨也にすこし苛立ちを覚えたが、過去に甘党だ、と言ったことを覚えてくれていたことに胸が踊る。少し口に含んでは味わって飲む。舌で十分味を堪能してから嚥下して、口の中の風味が無くなった頃にまたカップを傾ける。居心地のいい沈黙の中でそれを繰り返しているとふいに臨也が口を開いた。

「なんか不思議だね」
「なにが」
「シズちゃんと俺がこうしていることだよ。高校のときは未来でこんな風に隣に座ってシズちゃんが淹れてくれたコーヒー飲んでるなんて思ってもいなかったからね。」
丸くなったっていうか、すごく優しくなった、と言ってはにかむように笑う臨也を見て顔に血が上る。
本当は、俺は、高校の時からこうしたかった、なんて言葉は頭のなかをよぎっただけで声帯を震わすことはなかった。

「おかわり淹れようか?」
「いや、まだいい」
「へ?まだ入ってるの?さっきから何回も飲んでるからもう飲み終わってると思ってた。」
そりゃ驚くよな。何回口に運んでいるのにまだ半分以上のこっているのだから。ちょっと恥ずかしい。
でもおかわりを淹れてくれるのなら、是非ほしい。かなり躊躇ったあとに一気飲みして空いたカップを手渡す。

ふたたびたっぷり中身が入ったカップを渡されると、小さく礼を言うとさっきのようにソファーの端に座るのかと思ったら距離をあけずに俺の隣に座ってきた。臨也と俺の間に手を置く隙間がない位に近い。心なしか少し俺にもたれ掛かってような気さえする。これはダメだ。さっきからフワフワと匂ってきた甘い香りが近くて、頭がクラクラする。俺のなけなしの理性がグラグラと揺れる。
このままじゃ押し倒しかねる!と思って、まだ隙間のあった逆側に体をずらす。これで少なくとも手が二つ分は置けるな、というくらいの距離がおけてホッとする。いつも画面の向こう側にいた存在がここにいるというだけでも凄いのに、あんなに近くなんて心臓に悪すぎだ。

「ごめん、そういえばシズちゃん俺のこと臭い臭いって言ってたもんね。」
あは、と軽く笑ってはいるものの赤い瞳が傷ついたように見えたのは俺の錯覚だろうか。

「もう1時だけど帰らなくていいのか」
なんとなく悪くなった空気に居たたまれなくなった俺が、さっきから考えていたことを口にする。もちろん俺の本心ではない。本当はずっとここに居てほしいし、こんな風に二人で過ごしていたい。でも、臨也は違うだろうし、明日になればみんなの「折原臨也」だ。その姿を肉眼で見られるのはいつになるか分からない。きっと、また何年も映画やドラマや雑誌でしか声も姿も見えない日々が続くのだろう。もしかしたら、俺だけに何か言葉をかけてくれるのはこれで最後かもしれない。それが辛いかと聞かれればそうかもしれないが、俺はきっとまた我慢できる。どこかの中学生みたいな思考だが、臨也が頑張っているのをファンとして見るだけで精一杯だし、それ以上は欲張りすぎるというものだ。

「もう終電出ちゃったよ」
「タクシーとか」
「そういうのは家バレちゃったら怖いから使えない」
「じゃあマネージャー…」
「そんなに俺と一緒にいたくない?」
俺の言葉に被せるように臨也が尋ねてくる。期待と不安が入り交じった目で、俺の心を探るように覗いてくる。いくら雑誌をめくってもこんな瞳を、表情を写したページは無いだろう。そんな、見たことのない顔をした臨也につい本音が漏れる。

「そういう訳じゃない。」
「じゃあ泊めて?」
「はっ!?…どうぞ」
「ありがとう」
じゃあお風呂借りるね!と、嬉しそうに風呂場に向かうのを見て大きくため息をついた。
さっきから心拍数だいじょうぶか?俺…。



なんとか落ち着こうと煙草をすっていると後ろからペタペタと音が聞こえる。そういえばお湯ためてなかったから、シャワーだけだったのか。悪いことしたな。
そういえば服どうしたのだろう、と思って振り向いたのだが。目を疑った。て、天下の折原臨也の裸体…だと!?
見てはいけないものを見てしまった!と思い、すぐさま顔をそむけて煙草をくわえる。チラッと見えた鎖骨が素晴らしかった…。

「タオル…」
「あっ!」
うっかりしていた。いそいで洗濯物の中から綺麗なタオルを引っ張りだすとできるだけ臨也の方を見ずに投げ渡す。

「ついでに着るものも貸してほしいんだけど」
「あー」
タンスに向かい新品のパンツをあけ、パジャマになるものをさがしたのだが…ない。強いて言うならバーテン服か…ちょっと前まで俺が寝間着にしていた高校のジャージか…。そういえば、抱き枕の臨也はパーカーにハーフパンツだった。あれは本当にGJ!と思った。是非に生でその姿を拝みたいが生憎ウチにはハーフパンツもパーカーも無い。もたもたしていると、寒い、なんて声が聞こえて思い切って高校時代のジャージを渡す。
ありがとーといって綺麗なケツを晒しながら脱衣所の方に戻っていった。くそ、無防備すぎる!




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