「シズちゃん物持ちいいんだね、信じられない。」
「悪かったな」
俺も風呂に入りジャージに着替えてリビングに行くと、臨也がまた三角座りをしながら携帯でテレビを見ていた。渡した俺が悪いのだが、俺の名前が縫いつけてある臨也っていうのは凄く目に悪い。袖が長いせいで、ちょこんと出ている指先とか、かわいい。いますぐ写真に収めたい。

「なに見てるんだ?」
「俺がでてるドラマ」
「へー」
へー、なんて言ってみたが、実は録画予約済みである。俺が臨也主演のドラマを見逃すわけがない。

「どうする?寝るか?」
「うん」
とはいったものの、臨也をどこで寝かすかが問題だ。ソファー?いや、風邪ひいちまったらどうする。来客用の布団なんて無い。じゃあ俺のベッドか?それが一番いいのは分かってはいるが、毎晩臨也をオカズにアレをやっている場所に本人を寝かすのは気が引ける。念のために臨也が風呂に入っている間に臨也シーツも抱き枕もその他諸々すべてあの部屋に押し込んだが、俺の精神衛生上よくない。明日からそのベッドで寝れる気もしないし、シーツや布団を洗うなんて死んでも出来ない気がする。

「毛布貸して」
「は?なんで」
「ソファー貸してよ。嫌っていうなら床でもいいから、毛布だけでも貸してよ。寒い、寝れない」
健気なことを言う臨也が可愛い。そんなこと言われたら少々罪悪感が湧いても清潔なベッドで寝てもらうしかない。

「こっちこい」
リビングに隣接する部屋の扉を開いてベッドを指さす。

「なんで?いいの?」
「おう」
「シズちゃんは?」
「ソファーで寝る」
「…そう。じゃオヤスミ」

パタン、と音をたてて臨也との間をドアが遮る。
なんか機嫌悪かったような…。まぁいいか。と気を取り直してタンスの上から毛布をとりだし、ソファーに寝転がる。
緊張して眠れないかと思ったのに、疲れていたのかすぐに睡魔がやってきて、あー臨也が一つ屋根の下にいるのか…と夢心地に考えながら眠りについた。


ガサッと物音がして目が覚める。扉が開く音?臨也がトイレにでも行く音だろうと思い、毛布を被りなおして再び眠りにつこうと目を閉じる。ところが、足音はだんだん近づいてきてどう考えても俺の方に近づいてきている。

「…ズちゃん」
今名前を呼ばれたのか?ほとんど空気に近い声だったから上手く聞き取れなかった。衣擦れの音がしたかと思うと、冷たいものが頬に触れる。夢か現か、分からない状態でこれはなんだろう、と見当ちがいなことを考えていると、次は唇に何かが触れた。擦りあわせるように動くと、濡れた柔らかいもので撫でられる。その感触に目を開けると、目の前に臨也の顔があった。

「いざや?」
「起きちゃった?」
「何してんだ」
「ん、久しぶりのシズチャンを味わってる」
ふふ、と声を潜めながら笑うとまた唇をなめられた。…これは、俺の都合のいい夢なのか?これが現実だと言われても、どうにも信じられる自信は無い。

「夢?」
「さぁ、どうだろう。ほっぺた抓ってみたら?でも、シズちゃんの体なら痛くないだろうから、あんまり意味がないだろけど。」

臨也が急に立ち上がったかと思えば、俺が被っていた毛布を剥いで腰のあたりに座ってくる。
「でもさ、夢ってことにしておきなよ。それで、朝になったら全部忘れて、さっきみたいに俺に優しくして。約束。」
薄く笑って小指を差し出してくる臨也を呆気にとられて見ていると、不愉快そうに眉をしかめて、投げ出していた左手を掴み軽く小指同士を絡ませ、小さく揺らした後にギュッと両手で握り込まれた。

「これは夢だよ、シズちゃん。今から言うことは全部夢の中の話」
ね?と首を傾げる臨也に小さく頷いた。

「大好きなんだよ、シズちゃん。高校の時から」
カーテンの閉まっていない窓から月の光が差し込み、臨也の顔を明るく照らす。息を飲むほど綺麗で、手を離せば消えるんじゃないか、というくらい儚く見えた。
ぐっ、と生唾を飲み込むと臨也の睫が小さく震えた。

「昔からシズちゃんは俺に興味が無かった。いくらナイフを刺しても君は傷つかないし、いくら喧嘩しても増えるのは俺の苦しさとか思いだけ。シズちゃんは最初から、俺に向ける感情は憎悪で、ずっと変わらなかった。そんなシズちゃんを変えたくて俺は本格的に芸能界に入ったんだよ。」
違うぞ臨也、そのお前が見てた憎悪は俺が作り出した虚構だぞ、最初からお前には好意しか向けていないぞ、と伝えようとして口をひらこうとすると、まだ何も言わないで、と言われ閉口した。

「幽くんも居ることだし、俺が活躍して有名になればちょっとは見方変えてくれないかな、なんて淡い期待を持って仕事してた。まぁ、そんな願いは見るも無惨に砕け散ったわけだけど。俺は今や売れに売れてる俳優さんで、街をあるけば俺が写ったポスターを必ず見かけるくらいの有名人さ。でも、シズちゃんは俺に対して何の反応も示さない。近づいても物を投げないなんて、むしろ俺への憎悪は薄れてる。会わなくなっても俺の中で君はどんどん増幅するのに、君の中の俺は薄れていく。皮肉なもんだね。」
はは、と自嘲気味に笑うと、俺の胸の倒れ込んできて、首筋に鼻を寄せすぅ、と息を吸った。その行動につい赤面してしまう。しかも、うれしそうにシズちゃんの匂いだ、なんて言うもんだからたまったもんじゃない。

「シズちゃんが起きないならそのまま襲うつもりだったんだけど、起きちゃったから。正義感の強い君はきっと彼女さんに喋っちゃうだろうし、なんていうかそういうのは癪に障るからね。キスで我慢する」
そう言って体を起こすと泣きそうな顔で笑う。

「これは夢だし、忘れてくれていい。でも、最初に忘れてくれなんて言った俺が言うのも変な話だけど、」
絡めていた手を少しずつ解きながら一瞬鼻をすすった後に今まで見たことない笑顔で臨也は言う。

「ちょっとだけでも覚えてくれてたら嬉しいよ」


そう言い残して、部屋に戻ろうとする臨也の手を捕まえる。
「どうしたの?」
「ちょっと来い。」
後で思い返せば、このとき俺はかなり動揺していた。言うまでもなく途中で覚醒した俺は流石に現実かもしれないって理解し始めてたし、半ば諦めていた片思い相手に現実に告白されたのだから、冷静でいられないのも当たり前だ。しかし、この俺の行動は間違っていた。
臨也の手を引っ張ってある部屋の前まで来るとポケットから鍵を取り出す。

「なに?何の部屋?」
「お前の部屋。」
は、と間抜けな顔をした臨也を横目に思い切って扉をひく。

もちろん、その部屋は臨也グッズで埋まっている部屋である。ほとんどメディアに露出が無かったときの雑誌も、臨也の所属プロダクションが発売した、いいのか、これ…な抱き枕も、今まで出演したドラマや映画のDVDもすべてがおいてある。

「す、すご…」
「俺もずっと好きだった」
「うん…これは疑う余地もないね…」

愕然としている臨也を後ろから抱きしめると、腕の中でこっちに向き直り背中に腕を回してくれた。

「シズちゃん、俺、今すっごく嬉しい」
「ああ、俺もだ」
「でもさ…」
「あ?」
「ちょっと引いた」
かわいくねぇな!かわいいけど!とりあえずさらに力を込めて抱きしめ直すと笑いながら、死んじゃう、なんて騒いでた。

画面の中の臨也もいいが、やっぱり本物の方がいい。あのドラマでやってたのくらい濃いディープキスしてくれよ、と言ったら足を踏まれた。

かなり遠回りをしたが、晴れて臨也と恋人になれたのだ。言うまでもないが、その日から俺の臨也抱き枕が抱き枕として活用されることはなくなった。

「シズちゃん…寝るときくらい離してよ…」
「無理だな。」



これが夢だと言われても、俺は信じられる。こんなに幸せな現実があるとは思えない。でも、醒める夢は見せないでくれ。まだ、ずっと、こんな甘い夢の中で微睡んでいたい。











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お粗末さまでしたorz
長い割に削ってもいい蛇足がわんさかわんさか
読みにくいものになっていたと思います…
ここまで読んでくださって本当にありがとうございます!
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