成人してしばらくしてからの話、つまり5年くらい前の話だが、俺は臨也に恋をした。高校の時から殺し合い、喧嘩をし、大嫌いだったはずのノミ蟲に対してどういう経緯で恋愛感情が湧いたかなんて俺にも説明できない。ただ、気付いたらとてつもなく愛しくなってしまった。
しかし、自覚してからも、つい反射で標識を投げてしまったりしていた俺はアイツと所謂「恋人」なんてこっ恥ずかしい関係になれるとは夢にも思わなかった、のに。

喧嘩してる最中に路地裏に追い詰め、初めてまともに臨也を捕まえた俺は、勢い余って告白してしまった。
あーやっちまったなぁーとか思って、ナイフで切り付けられることを覚悟した瞬間。
臨也が、「いいよ」と言ってくれたのだ!
その場で羽交い締めにして、思う存分匂いや、妄想でしか触れられ無かった細い体の感触を味わった。抱き締めた瞬間、臨也は逃げるように体をよじったが無視して力を込めたら動かなくなった。俺の腕の中に臨也がいる!信じられない。嬉しい

もちろん、それだけじゃ足りない俺は毎晩仕事終わりに臨也宅に押し掛けては、晩飯を作ってやったり、添い寝してやったり(残念ながらヤったことはない)、色んなことをしている。

そんな感じで1ヶ月経とうしたある日のことだった。俺が疑念を抱き始めたのは。

「いーざーやーくん!」
「っうわ!い、いきなりさわるなよ!」
後ろから首に回した手を叩き落とされ、スタスタと何処かに行ってしまったり、

「一緒に風呂入るぞ」
「え、あ、…うん」
ちゃんと肯定の返事を返したにも関わらず、浴槽の中ではこれでもか!というくらい縮こまり、一切俺には触れようとしなかったり、

「おい、こっち向けよ」
「俺は寝る時は壁側を向きたいんだ」
と言って、添い寝しても無駄に広いベットの上でわざわざ端っこに横たわり、抱き枕どころか温もりさえ感じられなかったり。


最初は、こんなもんか。なんて思っていたが、どう考えても違うよなぁ!!
そりゃ、たまには抱き締めたり、キスもしたりする訳だが、毎度毎度、体を固くして微かに震えていたりする。
悲しいが臨也はこんなことするのは初めてじゃないだろうし、噂ではビッチだとか…あー、思い出しただけで腹立ってきた。だから、慣れてないわけじゃないんだ。たぶん、他に理由があるはずだ。


とりあえず、俺は一ヶ月目にして気付いたのだ。
これは恋人なんて甘ったるい関係じゃねぇじゃねぇか!!とな。
好き、なんて言葉も聞けていない。
でも臨也は告白した時にちゃんと、オッケーしてくれたし、体を固くするだけでキスもハグも抵抗はしない。

考えれば考えるほど、ますます分からなくなってきた。
ふと、困ったときは友達だよな!と思ったので、新羅の家に行くことにした。



「嫌われてるんじゃないの?」
しかし友人は冷たかった。

「あ゙ぁ゙?」
『新羅!悪い、静雄…。』
即座にセルティに宥められなんとか怒りを抑える。

「ごめん、冗談だよ。でも驚いたなぁ!君たちがそんなことになってるなんて!」
「うるせぇ。で、アドバイスはないのか?」

んー、と唸りながら手を顎にやって考える素振りを見せる新羅。
そうだ、最初っからそうしてくれ。

『静雄、それは直接本人から聞けばいいんじゃないのか?』
「聞いたんだよ。でも、『さぁ?』とか『どうでもいいじゃないか』と言って素直に言ってくれなかった。」
『そうか…。』
親身になって、相談に乗ってくれるセルティは本当にいい奴だ。

「直接…そうだ!静雄!臨也の口から直接聞けばいいんだっぅぐえ!」
「だ、か、ら、直接聞いたって今言ったじゃねぇか!!!」
『お、落ち着け!とりあえず新羅を離そう!な?』
全く…。セルティはこんなにいい奴なのにこの眼鏡は一体どういう神経してやがる。
セルティに言われれば仕方ない。掴んでいた白衣の襟元を離してやった。

「ふぅ。話を聞いてからにしてくれよ、こんな乱暴は。」
「…」
「分かったよ!だから、僕が考えたのは『直接聞く』のでは無く、ただ『臨也の口から直接聞く』方法だよ。」
『どういうことだ?』
「臨也を僕の家に呼ぶ!そして、静雄には隠れといて貰って、僕が臨也から君をどう思ってるか聞き出すんだよ」

なるほど!安易過ぎるが、いい案かもしれない。ちょっとだけ、さっき睨んだりして悪かったなぁ、と思う。

「いいかもしれねぇ」
「本当に?よし!そうと決まれば臨也を呼ぶよ!」
「は?今から!?」
『よし、新羅はやくメールしろ!』


それから新羅はすぐ臨也に連絡を取った。なんと、20分もしないうちにここに着くらしい。
あーだこーだ言われるうちにベランダに追い出され、カーテンが閉められた。
もう夕方なので、カーテンが閉まっていることを怪しまれはしないだろう。何故か全部閉められてしまった窓を少しだけ開いて耳をあてると、足音が聞こえた。臨也が来たらしい。

「なに、新羅。急用って。」
「まぁまぁ、そこに座りなよ。あ、コーヒーいる?」
「いらない」
「それは残念。ところで本題に入るけどさ、君は静雄のこと好きなの?」

オイオイオイ!
まさかの直球発言に後ろにこけそうになった。
普通、カモフラージュの話とかしてから何気なく切り出すもんじゃないのか!

「…何か言われたの?」
「いいや。ただ、相談されたんだよね。『アイツは俺のこと好きなのかどうか分からない』ってね。医者の端くれとしても、友人の一人としても、僕は『大丈夫!きっと好かれてるよ!』なんて証拠も何もない励ましをするわけにはいかない。だから、聞いてみた。」
「わざわざ、俺をここに呼んで?」
「そうだよ。」

ふぅーん、と言って暫く沈黙が続く。
なんだこの間は。臨也に告白したときでもこんなに緊張しなかった。
早く答えを言ってくれ!

「…知らない。」
俺の祈りが通じたのか、臨也がポツリと回答をつぶやく。
しかし、その答えは酷く曖昧なもので。何だよそれ!ハッキリしろよ!

「へぇー。じゃあキスを恐がったり、お風呂入っても何も無かったり、一緒にベットインしても何も無かったりな割に抱き締めたりされても抵抗しないのは何で?」
ガタガタッと音がする。今のは…もしかして、椅子から落ちたのか?
それにしても新羅の明け透けな物言いにヒヤヒヤする。もうちょっとオブラートに包めないのか。

「そ、それ、シズちゃんが言ったの…?」
「まぁね」
また沈黙。

「…別にいいだろ。俺がシズちゃんをどう思おうが!」
ついに逆ギレしてしまった。
なんだ?さらに臨也のことが分からなくなってきた。
照れて「好き」と言えないだとか、俺が期待していた可愛らしい理由じゃないのか?

「臨也?」
「帰る」
ドンドンと体の軽さには見合わない大きな音を立てて出て行ってしまった。

バタン!と扉が大きな音を立てて閉まったのを聞いて、そっと部屋の中に入る。

「新羅…」
「これは、思ったより深刻かもね。」
肩を竦めて苦笑いする新羅に不安を覚える。

「もしかして、アイツ俺のこと嫌いなのか!?」
「違うね。むしろ、大好きだと思うよ?」
「じゃあなんで…」
「分からない。臨也に会って、ちゃんと理由聞いておいで。」

ややこしいことになってしまった。結局、本人の口からでは無いが、臨也が俺を好いている、というのは分かった。
残る疑念は「触れると怯える」ということ。
もう、頼れるのは己のみ。
はぐらかされても、どうにかして吐かそう。そう決意した。



もらった合鍵で扉を開ける。もう夜なのに、部屋に電気は点いていない。前、部屋に来た時にチラッと見た秘書もいないようだ。
でも、臨也の匂いがする。なんとなく、こっちだろうな、と思う方向に歩いていくと寝室だった。

「臨也?入るぞ?」
思い切って声を出してみたが、返事はない。

鍵が閉まっている様子が無かったので、そっと扉を開けると、ベッドに臨也が寝転がっていた。

うつ伏せに寝ているので、顔が見えない。仰向けにしようと肩に触れると飛び起きて俺の場所から手が届かない場所に逃げてしまった。

「どうした?おい、泣いてたのか?」
「別に…。関係無いよ」
そう言いながらも、目は充血しているし、枕カバーが濡れている。
それに、関係無いだと?ふざけるな!

「あるだろ、」
「は?」
「関係。俺はお前の恋人、なんだから」
恐る恐る恋人という単語を使ってみたら、臨也が眉を八の字にして笑った。
「恋人、ね。」






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