君だけに義理チョコレート！
「あーーー、なんだよ、もう！」
2月14日、ルークは苛々していた。これでもか、というほど使用人や護衛役の軍人に怒鳴り散らし、その度に同じ顔をした双子の弟や家庭教師に嫌味を言われまた怒鳴る、の繰り返し。その為ルークの中に溜まっていくストレスや何やらは既に容量オーバーしていた。
そもそもなぜルークが今日ここまで機嫌が悪いのかというと彼には想いを寄せる人がいた。勿論初めて色々な人と触れ合ったルークにはそんな経験は初めてで、想いを伝える方法も勇気もない。
ルークの想い人、ユーリとは最初の出会いこそ最悪だったものの、それがルークがユーリを意識し始める事の第一歩だった。ユーリを見れば何故か心臓の当たりがきゅう、と締め付けられるような気がして、ルークはずっと一人で悶々と考えていた。
そしてつい先日、ルークは自らユーリのことが好きだと気づいてしまった。気づいてからでは最早後には引くこともできず、かと言ってズルズルと想いを引きずるばかりでなかなか前に進めない。
というのもルークにはユーリによく思われている自信がなかったのだ。いや、むしろ歩く思われている自信すらあった。
そして今日、世間ではバレンタインという想いを寄せる人にチョコレートを渡す日だとルークは今日知った。それを教えてくれたのは外でもない、ユーリだった。カチコチに固まりながらも台所で大量にチョコレート菓子を作っているユーリに何をしているのか、と聞いたときに教えてくれたのだ。ルークは知ったときユーリの今作っている菓子の行方が気に掛かりユーリは好きな人に渡すのか、と問えばロックスの手伝いだ、と言われた。ルークはホッとしたような少し残念なような、複雑な気分にさせられた。
それからルークは街へ行く買い物班に混ぜてもらい街でチョコレートを購入した。勿論ユーリに渡すために。好きな人以外にもいつも世話になっているものや仲の良い友人などにも渡すと聞き、ルークはユーリの分以外にも数個買った。だがユーリの分には他の物よりも値段が幾分か高価なもので如何にも特別感のある見た目だった。
買ったところまでは良かった。だが、素直でないルークがそう易易とユーリに渡すことなど出来るはずがなかった。それが今、ルークを苛々させていた。だがルークはそれをユーリのせいだと(自分の中で)言い切っている。
「……クソッ、何で俺がこんなに…あーもー！」
「ルークいい加減にしなさい、皆困ってるわ。」
「るせーよっ！」
ティアの声に更に機嫌を悪くしながらルークはべし、とソファーを蹴った。なんで俺がこんな思いをしなければならないのか、という言葉が出せない代わりに。
他の者には既に渡せた。普通に渡せたのに、やはりといいうか、ユーリには渡せずにいる。今日も今日であと5時間しか残っていないというのに。
それでも機嫌も悪いが諦めも悪く、最後だ、と今ほとんどの者は食堂に行っているからユーリがまだ自室に残っていることに淡い期待を抱いてルークは部屋を出た。
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