テイルズ短編 | ナノ



君だけに義理チョコレート!

部屋の前まで来たのはいいが、とルークは一人呟いた。
耳をドアに押し当ててみるが物音一つしない上に人の気配など全くない。誰も、居ない。皆、食堂に行ってしまった。それは彼も例外ではなかったようだ。
はぁ、と溜め息を吐きくるりと振り返ると、黒が目に入った。声を上げる暇も余裕もなくルークは目を見開いた。

「どうした、俺達の部屋になんか用か?」

黒の正体、ユーリのその言葉にルークは漸く我に返った。
そうだ、今渡せばいい。だが何と言おうか。先程バレンタインのことを教えてくれたからその礼に、とか。などと僅か数秒で頭をフル回転して考えてみるが数秒でも固まってしまっていることに変わりはない。ユーリはハテナを頭に浮かべてどうした、ともう一度聞いた。

「あ、いや…お、俺は……」

今までは渡せないことに苛々していたが、いざ渡そうとなるとこの上なく緊張する。ルークは顔に血が溜まっていくのを感じながら後ろに隠し持っているチョコレートを震える手で出そうとした。

「ユーリ、ここにいたんです?」

やっと見つけました、と嬉しそうに駆けてくる少女はエステルだ。ルークは出そうとした手をもう一度後ろに引っ込めた。エステルはルークとユーリを交互に見て何を話していたんです?と首を傾げた。ルークは真っ赤な顔のままうぅ、と小さく唸ると何でもねーよ、とその場から逃げるように立ち去った。

「……何だ、あいつ?」
「…どうしたんでしょう?ルーク、突然……。」
「さぁ?」
「でも、何だかさっきのルーク恋する女の子のようでした。」

うふふ、と先程のルークを思いだしたのかエステルは微笑んだ。ユーリは理解できていないようではぁ?とエステルを見た。そういえばこのお姫様は人を観察するのが好きだったということを思い出してユーリはエステルの真似をするようにルークを思い出してみる。
身長差の為か上目遣いで少し潤んだエメラルドの瞳、何かを必死で伝えようと震えていた唇、いつもの棘が根こそぎ取られたように垂れ下がった眉、その髪と同化するのではないかと思うくらい赤められた耳。一つ一つ思い出し、ユーリはふと気付いた。

「(あいつ、何か持ってなかったか?)」

そこまで思い出すとユーリはにぃ、と笑った。成る程な、と言うとエステルにむき直して用は何だったのか、と聞いた。エステルが食堂でロックスがチョコレート菓子を配るのを手伝って欲しいと嘆いていたことをユーリに話すと、ユーリはへいへい、と気の抜けた返事をしながら食堂へと向かった。

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