テイルズ短編 | ナノ



愛してはいけないと、あれ程言ったのに

俺なんか好きにならない方が良い。
ユーリに意を決して告白したルークに降りかかってきたのはそんな冷たい言葉だった。

「あらルーク、どうしたの?」
「…ジュディスか、」

ルークはユーリに振られてその場にいることすら怖くなって逃げ出した。その時にそっか、いきなり変な事言ってごめん、などと平静を保っていたつもりだった。だが実際は好きな人に否定されたと頭を鈍器で殴られるような感覚を覚え、逃げ出すのに必死で涙は抑えられなかった。見られたか、は別だが。

「どうして泣いているの、相談くらい乗るわ。」
「……ありがとう。」

こうして逃げ出して漸く落ち着いたところで一人丸まって泣いていたところをジュディスに見つかってしまったのだ。ジュディスの優しさにルークはさらに涙を流した。

「…俺、ユーリが好きだったんだ。本当に。」
「ええ、知ってるわ。見ていれば分かるもの。」
「……俺ってそんなにわかりやすい?」
「とっても。」

笑顔で返すジュディスを見るとやけに落ち着く事ができてルークは自然と笑みがこぼれた。ジュディスはルークの隣に腰掛けた。

「さっきユーリに好きって伝えてきたんだ。」
「あら偉いじゃない。」
「玉砕だったけど。」
「ユーリは何て?」
「『俺なんか好きにならない方が良い。』んだって。」

その台詞を口に出すと悲しさが再び襲ってきたのかルークはポロポロと涙をこぼし始めた。あらあら、とジュディスがルークの頭を撫でるものだからルークは姉ができた気分になった。ジュディスにお姉さんみたいだ、と告げるとジュディスは微笑んだ。

「…俺、まだユーリのこと好きなんだ。」
「ええ、恋心なんて簡単には変わらないわ。」
「でもユーリからしたらこんな気持ち、迷惑でしかないよな。」
「嫌われているよりは良いんじゃないかしら?」
「…そういうもんなのかなぁ……。」

ぐす、と鼻を鳴らすルークにジュディスはハンカチを渡した。ルークの顔は涙でぐしゃぐしゃでジュディス曰く、とっても面白い顔になっていた。ジュディスに面白い顔と言われルークは少し赤面しながら渡されたハンカチで顔を拭いた。それからありがとう、と礼を言った。

「ユーリはあなたを大切に思っているからこそあなたにそう言った。」
「……そうだったら良いなぁ。」
「あら、本当よ?」
「そんなわけねぇって。」
「年上の言う事は素直に信じてみるものよ。」
「…うん、わかった。でもレイヴンだったら信じないよ。」
「ふふ、私もよ。」

ジュディスのおかげでますますユーリが好きになった気がするがルークはそれでも良いか、と思える程気づけば気持ちが楽になっていた。何よりユーリを好きだと思ってはいけないのに気持ちがついていかない、というしがらみからも解放された事がルークにとって救いだった。

「男は度胸よ、これからもアタックしていきなさい。」
「えっアタックはちょっと…」
「好きなんでしょう?ならあんな事言えないくらい好きにさせればいいのよ。」
「うー言い返せないところが悔しい。」
「さ、ルークはもう大丈夫そうだからもう皆の所に戻りましょう。」
「うん分かった。先行ってて。」

ルークが一人の時はすすり泣く声しか聞こえなかったはずなのにいつしか笑い声さえ聞こえるこの空間に面白くなさそうな顔をする者が居た。ジュディスはそんな彼に近付くと腰に手を当てた。

「よ、どうした。」
「どうした、なんてご挨拶ね。彼、かなり気に留めてたみたいよ。」
「そうだろうな。」
「あら、狙ってたの?邪魔しちゃったかしら。」
「それと本当に警告の意味が半々ってとこだな。」

ジュディスと話しているにも関わらず彼、ユーリが見つめるのはルークのが居る場所。ユーリがルークの事が好きなのは明白なことだった。ルークとそれ以外に向ける目が違いすぎるのだ。ルークには狂気とも取れる愛しそうな目を向ける。ジュディスにはそれが気がかりだった。

「あなたは彼のことをどう思っているの?」

分かり切っていたことだったかジュディスがそうユーリに聞くとユーリは聞かれるとは思っていなかった、と言わんばかりに驚いた表情を見せた。

「なんだ、ジュディなら気づいてると思ったが。」
「そう思ってもらえてるなんて知らなかったわ。」
「ルークは好きだ。あいつから俺が何て言ったかくらいは聞いたんだろ。俺は一回あいつを手に入れちまうと…多分離せなくなる。ずっと俺のものでいて欲しくなる。」
「その為の警告だったのね。」

ユーリは頷いた。自分で自分のコントロール、抑制が出来なくなると分かっているのだろう。ジュディスもまたそれを見越していた。だからルークにもユーリはルークを大切に思っているから、と言ったのだ。恐らく警告というのはルークには伝わっていないのだろう。自分が嫌われている、と思い込んで気が回っていなかったのだ。

「ルークはまだ貴方のことが好きみたいよ。」
「…そうか。」
「嬉しそうね。」
「これから嫌いになってもらわなきゃなんねぇんだ。んなわけねぇって。」

ユーリはかなりの博愛主義者だ。と言っても人類愛ではなく仲間や弱い立場のもの達。そんな不特定多数の数を守り通すと決めた彼がたった一人にその愛を注ぐことになる。確かに愛が重くなりそうだとジュディスは思った。それ故ユーリは嫌われたいと思っているのだ。嫌いにならなければならない事と束縛される事。ルークであればどちらを選ぶのかジュディスは考えた。そんな考えを持つことすら無駄なものだと思う程すぐに答えは出たのだが。ユーリがそれに気づくことは当分無いのだろう。

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