そして新しい仲間とともに。
変わる為の旅。そう決めて旅に出たは良いが中々うまくいくものではない。
ルークは荒くなる息を自覚しながら少し前を行くガイが気付かないように願う。ぐらぐらと合わない視点にどうしたものかと半ば他人事のように考えてみる。最近は色々な国から追われるようになってしまった。そのせいでゆっくりと休める街などない。野宿は夜盗や魔物に警戒するため、満足に眠ることもできない。
屋敷にいた頃には想像もしていなかった生活にルークは最早体力の限界だった。ふらつく足で気力に任せ地面を踏みしめる。
「ルーク、大丈夫か?」
不意に投げ掛けられた言葉。は、とガイを見れば心配そうな顔つきにルークは心を痛める。また迷惑をかけてしまう。それだけは嫌だ。変わると決めたのに、と。大丈夫、とさも何でもないことのように笑い飛ばしガイの横を通り過ぎようとした。
ぴたり、と額に当てられた手。それは冷たくてルークには心地の良いもので。
「何だ、この熱は!」
触れた瞬間ガイがルークに詰め寄った。それもルークは自覚していたが言わないでいた。心配を、迷惑をかけないために。大丈夫だってば、とガイの手を振り解こうとしたがガイはそれをさらに強く握りかえし医者に診てもらおうと言いだした。否定の言葉を受け付けないと言わんばかりのガイの気迫にルークは折れるしかなかった。
だがルークにはわかっていた。自分達が体も心も全て安心して休める場所など、もうこの世界にはないのだと。自分を診てくれる医者など、探すだけ無駄なのだと。
「ルーク、ちょっと待ってろよ。」
ガイは簡易のテントを出しルークを押し込んだ。じゃ、と言い残して歩き出すガイの姿を見ながらルークは一人テントの中で横になった。
ふわりと暖かいものが体を包む心地の良い感覚にルークは先程まで辛かったはずの体を起こした。
周りを見るとルークよりも少し年下と思われる黒髪の初年が此方を見ていた。あ、と声を上げる彼にルークは誰だ、と問おうとしたがまだ寝ているように咎められ渋々体をもう一度寝かせる。
「お前誰だ?」
「あ、僕はジュードっていうんだ。」
「ふーん、ところでジュード、こんなところで何してんだ?」
「たまたまここら辺を通りかかったらテントの中から辛そうな声がしてきて…。」
解熱剤持ってて良かった、と少年は笑った。ルークはその笑顔がとても輝いて見えて、逆に自身がとても汚れて見えた。きっとこの少年は自分が大罪人だと知らないのだろう。ならば知った時、この少年はどんな反応を示すのだろう。ルークの頭に浮かんだのは紛れもない軽蔑、恐怖心に駆られた顔。
バサリと布を巻き上げる音がして見上げるとガイがいた。
「待たせたな、ルーク…ってこの子は?」
「あ、ごめんなさい、僕はたまたまここを通りかかっただけだから。」
「そうか。ああ、ルーク、近くの街の医者が外出中らしい。そこの街じゃあまり知られてないみたいだから待たせてもらおう。」
「わかった。」
「じゃあ僕も一緒に行くよ。ここら辺魔物がいるし僕も多少は戦えるから。それにその街に今から帰るところだし。」
「そっか、よろしく。あ、こっちはガイ。」
「僕はジュード。」
よろしく、と互いに言い合った。ガイがテントの片付けを始めるのでルークも手伝おうとしたが病人だから、と止められた。こればかりは仕方ないとルークも諦め簡易だからそう時間もかからないだろうと見ているとジュードが手伝いに行った。
行ったすぐはガイにいいから、と言われていたがジュードはお邪魔するんだから、と押し切って手伝っていた。テントで寝込んでいる奴を簡易だが治療したりいいと言われても手伝ったり、こいつはお節介焼きなのかとルークは思った。同時にお人好しだとも。いつか騙されないか心配になった。
「よし、じゃあ行こう。」
気付くとテントは片付いていてガイの号令でルーク達は歩き出した。
「ただの過労だよ。ちゃんと休まないと。」
街についてルークは驚いたことがあった。それは街の医者というのがジュードのことであったということ。てきぱきと診察から治療までするこの少年にどちらが年上なのかわからなくなった。まさか童顔で背が低いだけなのかと思い年を聞いたら ルークより二つほど年下だとのこと。世界にはしっかりした子がいるんだな、とルークは感心せずにはいられなかった。
ジュードの診察では過労で免疫力が低下し風邪にかかりやすくなっているだけらしい。そして風邪にかかったのだと。心配するほどのことでもないと聞いて一番安心していたのはルークでなくガイだった。過保護すぎるのも考え物だとルークは思わざるをえなかった。
「しばらくはここにいなよ。今旅に出るのは許可できないからね。」
「でも…俺らあんまり金持ってねぇし。」
「それでも見過ごせないよ。二人が嫌じゃなかったら暫く僕の家にくる?」
外に行くのはだめだからね、とジュードが念を押すとルークより先にガイが了承した。ガイからも今は休むように言われルークもわかったと言うしかなかった。
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