テイルズ短編 | ナノ



ノンアルコールでプラシーボ

ぎゃあぎゃあと酔っ払い共がホールでふざけ合っている声がする。そんな雑音を酒の肴にユーリは甲板で一人飲んでいた。宴会のような雰囲気が苦手で一杯だけ、と思いながら甲板に出てきたが何となくホールへは戻りたくなくなって空を見ながら黄昏て、気付けば持ってきたグラスには一滴も残っていなかった。それでも甲板に居続けたのだが外も暗いし肌寒くなってきたのでそろそろ戻ろうかとした時ユーリの目には一つの朱が目に入った。酒のせいかぼんやりした視界の中目を凝らすとそれはライマ国という小国の王位第一位継承者だった。

「お、どうした、坊ちゃん?」

その朱の正体であるルークはユーリの存在をたった今気付いたと言わんばかりに肩を揺らした。視線をさまよわせながら少しずつであるがユーリに近づくルークにユーリは疑問に思った。いつも自分を見つけた瞬間警戒心剥き出しにするのに(その原因は正しく自分なのだが)何故今ルークは自分の隣に並んでいるのだろう、と。
本当にどうしたのかと思い顔をのぞき込むとその顔がほんのりと髪と同化するように染められていた。

「成る程、酒でも飲んじまったのか?」
「……おう…」
「…にしてもどんだけ飲んじまったんだ?妙に素直だわ顔は赤いわ……」

ひたり、とルークの頬に手を当てるとやはりそれなりに体温が上がっているようでずっと甲板にいたユーリにとっては心地の良いものだった。ルークと言えばユーリの手を拒むこともせず、むしろユーリの冷えた手が心地良いのだろう、目を閉じてされるがままになっていた。そんなルークに重症だな、と思いながらもユーリはもう片方の手もルークの頬に触れ大して変わらないであろうがルークの体温を奪っていった。

「……ユーリ、」
「なんだ、酔っ払ってんのか?坊ちゃんから俺の名前が聞ける日が来るなんてな。」
「…俺は酔ってぬぇ。」
「ほら、子供はさっさと寝ろ。」

そろそろ本当に冷えだす頃だろう。ユーリが船内へルークを連れて戻ろうとした。だがルークは駄々をこねるようにユーリの服を掴んでその場から離れようとしない。おまけにもうちょっと一緒に居ろ、なんて言うものだからユーリはルークが少し心配になってきていた。と同時にいつもこうならば可愛げがあるのに、と小さく溜め息を吐いた。

「船ん中戻らねーと風邪引くぞ。」
「ユーリ、」
「それにお前、腹出してんだから。腹壊すぞ。」
「なぁ、」
「ま、俺にとっちゃ別に坊ちゃんが風邪引こうと関係ねーけど。」
「ユーリってば、」
「でも困るのはお前だけじゃねぇんだぜ?使用人のことも少しは」
「聞けよ!」

とうとう声を張り上げたルークにユーリは少し驚いた。ルークがあまりにも大人しいものだから少し言いくるめれば船内に戻るだろうと思っていたがルークにはそれなりの理由があってここに留まっているらしい。先程から何かを言おうとしていたのを聞かなかったのはユーリ自身の落ち度だ、とユーリは反省しルークの視線に併せるべく腰を屈めた。
どうした、と聞けば片手で掴んでいたユーリの服を今度は両手で掴みそのままルークは引き寄せた。少し屈んだ体制だった為かルークはユーリの肩に顔を埋めてぎゅう、と抱きしめた。

「どうした?気分悪いんならちゃんと…」
「ユーリ、」
「……何だ?」

今度はルークの次にくる言葉に耳を傾けた。ぐいぐいと頭を肩に押しつけるルークが何故だろう、とても愛しく感じてユーリはその頭を優しい手付きで撫でた。

「俺、酔ってぬぇから、ちゃんと聞け。」
「はいはい、酔ってる奴に限ってそう言うんだよ。」
「……」
「…わーったって、んで?」
「あのな、俺、ユーリがな、」

好き。
小さな口からこぼれたのは紛れもないその言葉だった。

「やっぱお前酔っぱらってんだろ。」
「酔ってねぇ!ほんとにそう思ってんだよ…」
「はいはい、酔った子供は怖いな、と。じゃ、戻るぞ。」
「ユーリ!」

涙をボロボロと流しながら子供のようにしがみつくルークにユーリは本格的に酔ってんだな、と溜め息を吐きたくなった。酔っ払いの介抱をすることは偶にあるがこの手の酔っ払いに絡まれるのはユーリも初めてだった。酔ってない酔ってない、と言うルークはまだ泣き止むことなく今度は座り込んでしまった。

「ルーク、そろそろ本当に…」
「もういい!ユーリの馬鹿やろおおおお!!」

ユーリがルークを立ち上がらせようと右腕を掴んだがルークは突然叫んだかと思うとユーリの右頬を思い切り殴った。ユーリが何が起こったか理解する前にルークは泣きながら皆のいるホールへと走っていってしまった。
ユーリが状況を理解したのはそれから数秒ほど経ってからでその間の数秒は殴られた頬を手で押さえてポカンとルークの走り去った先を見ていた。

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