1月2日 午前7時
部屋に鳴り響く携帯アラームの音で目を覚ます。ベッドに仰向けのまま、天井を見上げて何度か瞬きしたけど、頭がボーッとしてなかなか起き上がれなかった。

「………2時間しか寝れなかった」

初夢は覚えていない。
それから2時間後、いつも彼を下ろしている土手沿いの道路に車を停めている間あくびが止まらなかった。眠いのは勿論だけど緊張しているせいで生あくびばかり出る。

(…朝の4時まで着てく服で悩んでたとか…言えない…)

悩んだ。相当悩んだ。
初めてできた彼氏とのデートかよと我ながらツッコみたくなった。
同世代だったらまぁいつもより少し気合を入れてスカートとかヒールのある靴を履いて、メイクも頑張ったかもしれない。しかし今そうすると自分だけかなり浮いてしまう。
今時女子高生も休日に化粧してお洒落な格好をして出かけるのだろうけど、自分はもう顔も体も女子高生ではない。服の趣味だって学生時代に比べると地味になった。
年相応、でも大人っぽくなりすぎない服を手持ちから選び、男子高校生と並んで歩いてもおかしくないメイク。それを決めるのにかなり迷った。

(…結局試行錯誤してメイクはいつもと同じなんだけど)

ルームミラーを少し傾けて顔を確認していると、助手席側の窓を叩く音がした。

「あ!お!おはよう!」

慌ててミラーを戻して内側からドアを開ける。

「おはようございます」
「そして明けましておめでとう!」
「おめでとうございます…何ですか?」

新年の挨拶を終えても凝視しているのを不審に思ったのか片眉をひそめて首を傾げる。

「ジャージ以外の私服初めて見たと思って」
「練習ない日までジャージ着ませんよ」

ベージュのコートと藍色のチェックのマフラーがよく似合っている。チームの練習以外で合うのは2回目だけど、以前はお互い学校帰りと仕事帰りだったから私服は本当に初めて見た。

「服買うの、大変じゃない?」

車を発進させて素朴な疑問を投げつけてみる。
縦に大きくて横もそれなりの人なら単純に大きいサイズを買えばいいだろうけど、彼のような長身で痩身の人は大変そうだなぁと思った。

「私服はさほど困らないですけど、制服は大変でした」
「男の子ってアレだろ。お母さんが「すぐ伸びるんだから大きめにしときなさい!」とか言うやつだろ」
「うちは母より兄が言ってました。入学の時点で兄よりデカかったんで兄のお下がりも無理だったし」
「超言いそう!」

兄も当時は他の部員より大きかったけど、弟がそれを超えて大きいとなると遺伝なのかな?と思った。お父さんかお母さん、長身なのかな。

「そういえば聞くの忘れましたけどどこに行くんですか?」
「え?ああ、実家の近くの神社」
「…結局神社なんですね」
「だって私初詣まだだし。近所の人しか来ないから空いてるんだよね。境内の外で待っててもいいよ」
「いやさすがに神社まで行ってお参りしないのはおかしいでしょ…」

本来なら実家に帰っている時期だからいつも家族と行くけど、今年は今日の予定があったから帰省を先送りにした。家が近いから月1で帰ってるし。

「…空いてるとか言ってませんでした?」
「…おかしいなぁ」

車を降りて首を傾げた。
いつも半分ほど空いている駐車場は満車に近かい。大きい神社ほどではないけど、参道を行き来する人は例年より多い気がする。

「この辺今日から初売りだからかな?やっぱみんな大きい神社は混んでると思ってこっちに流れてくるのかも…っと」

はぐれないように前を向いて歩いていたら境内を出る人とぶつかってよろけた。歩きやすい靴でもこうなのだから、ヒールのある靴で来なくてよかったなぁと安堵していると

「………、」

目の前に差し出された手の平を見て言葉に詰まる。

「……え、い、いいの…?」
「嫌ならいいですけど」
「いやいやいや!!逆に聞くけど嫌じゃない!?さっきめっちゃ鼻かんだよ!?」

引っ込みかけた手の袖を慌てて引っ張る。

「そんなに潔癖に見えるんですか」
「そ、そうじゃないけど…」

差し出された大きな手を、そろりと握る。

(……うわ、)

細くて長い指で自分の手が見えなくなった瞬間にぶわっと体温が上がった。男の人と手を繋ぐのは初めてじゃないけど、こんなに緊張したのは初めてかもしれない。

(……強く握らないの、すごい蛍くんっぽいなぁ)

彼の手はひんやりしていて気持ちがいいから自分の熱を移したくないと思うと、こちらも緩く握ってしまう。

「…前から思ってたけど、蛍くん指綺麗だね」
「は!?」
「え!?」

感想を言っただけなのに勢いよく振り返って大声を出されたからびっくりした。

「ご、ごめん…「指も」って言えばよかった…?」
「…そうじゃなくて……普通、そういうの本人に言います…?」
「え、だめ?悪口直接言うより良くない?」
「いやだめとかじゃなく…」
「……蛍くん、耳真っ赤」
「…寒いからです」
「耳あて貸そうか?」
「要りません」

…そうか。

こういうことをしても不思議じゃないのが、そういう関係になるってことなんだなぁ




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