「おはようツッキー!」
朝6時半の通学路
家から少し歩いた所にある公園前では既に友人が待っていた。
「おはよ」
ヘッドフォンを外してそのまま首にかけ、並んで歩き出す。
「…俺緊張してあんま寝れなかった…」
「県予選で緊張してどうすんの」
「そうなんだけど…ウ、朝ごはん食べすぎたかも…」
「ちょっとここで吐かないでよ!?」
青ざめた顔で前屈みになる友人を前に思わず立ち止まって距離を取る。「たぶん大丈夫…」と苦笑する顔は真っ青を通り越して白い。
「……あ、そういえばさツッキー」
「なに?」
「あの…もし違ったら怒ってくれていいんだけど……」
「だからなに」
口ごもる顔色は少しよくなっていたけど、今度は目を泳がせてそわそわと落ち着かない。要領を得なくなって先を促すと、覚悟を決めたようにぱっと顔を上げた。
「…かッ、彼女…出来た……?」
ようやく言った、という顔。
しかしあまりに突然の質問すぎて朝っぱらから何でそんなことを聞くのかとか、急に何の話だとか、色んな疑問が集約されて
「…は?」
思いきり顔をしかめて聞き返した。
「なんの話。っていうか何でいきなりそんなこと聞くの」
「あ!ち、違うならいいんだ!ごめん!」
不機嫌さを隠そうともせずあからさまに表情を変えたものだから、友人は慌てて首を振った。
「…こないだ部活の後に嶋田さんの所に行って練習付き合って貰ったんだけどさ、帰ろうとしたら駐車場でツッキー見つけて…」
言葉を選びながら話を続ける友人を見下ろして思い出した。そして彼女に間違われた人の見当もついた。
「車に乗ってる誰かと話してるみたいだったからてっきり明光くんだと思って…明光くんだったら久しぶりに俺も話したいなって思ったんだけど……」
そう言ったところでちら、とこちらの表情を伺う。どこまで聞いていいものか迷っているのだろう。別にどこまで聞かれたって答えることは同じだ。はぁ、と浅く溜息をつく。
「…あの人は違うよ。練習に混ぜて貰ってるチームの人。兄貴の同級生」
彼の言いたいことが分かったので聞かれる前に自分から説明した。友人の表情がぱっと明るくなる。
「えっ…そうなの?明光くんの彼女?」
「違うみたいだけど…その日兄貴が飲み会に行ったから送ってくれただけ」
「なんだ…そっか、そうだよね。ごめん勘違いして」
友人はそう言って苦笑した。
『頑張っても彼女には見えないかぁ』
…「そうですね」とでも言っておけばよかっただろうか。あの時彼女が冗談で言った言葉にどうしてすぐ反応しなかったんだろう。彼女もどうしてすぐに「冗談だよ!」といつものノリで言ってくれなかったんだろう。
(彼氏には見えないだろうから弟にしたのに)
「……バカじゃないの」
「へァッ!?ごめんツッキー!!!」
「うるさい山口お前じゃない」
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