「そういやお前休憩中めっちゃ柿田に絡まれてたけど大丈夫だったか?」

車で家まで送られる途中、運転席の兄が口を開いた。まだメンバーの顔と名前が一致していないのだが、休憩中もずっと話しかけてきたのは雑用をしていると言っていた女性だ。

「何か学校のこととか女バレのことすごい聞かれた」
「お前女バレに知り合いいんの?」
「いないよ。だから聞かれたこと半分も答えてない」

はぁ、と溜息をついて背もたれに深く寄りかかる。それを見た兄は苦笑しながらハンドルを切った。

「愛想ない奴ほど構い倒したくなるって言ってたもんなぁ」
「…疲れる」

初めて連中に交じる自分を気遣ってくれたのか、はたまた彼女の人柄そのものなのか、それはまだ自分には分からない。

「…あの人」
「ん?」
「てっきり兄ちゃんか誰かの彼女だと思ったんだけど」

前を向いたままそう言うと、丁度赤信号で停車した兄が目を丸くしてこちらを見た。そしてすぐにぶはっと吹き出す。

「違う違う、クラスは高校3年間一緒だったけどそういうのは全然ない!」

そこまでスパッと否定されると下手に勘ぐった自分が恥ずかしくなってくる。

「あいつもバレー部だったからさ。よく話はしてたんだよ」
「…でも、バレーやるなら自分もチームに入るもんじゃないの。社会人チームにああいうマネージャーみたいなのがいるイメージってないんだけど」

兄があまりに笑うから少しむっとして負けじと反論した。すると兄は少し困ったように頭を掻いて「んー」と唸る。

「俺から言っていいのか分かんないけど…あいつバレー始めたの高校からだったからさ。1年の途中で膝だか肩だか壊してそのまま女バレのマネージャーに転向したんだよ」

膝だか肩だかって全然部位違うだろ、というツッコミはやめた。
…なんだ、よくある話だ。
そのまま退部するか、残って自分にやれることを探すかの違いだ。自分はバレーをやらないならバレー部にいる意味はないと思うけれど。

「去年だったかな…仕事終わりに偶然駅で会って、チームのこと教えたら興味持ってくれて。丁度赤井沢さんも自分忙しい時に雑務やってくれる奴探してたから、そのまますんなりマネージャーみたいになったなぁ」

青信号になって車がゆっくりと走り出す。そういえば今日も彼女がつけているスコアノートを少し見たけれど、学校でマネージャーがつけているノートと遜色ない書き込み方だった。

「みんなそれぞれ働いてるから練習試合とか大会の申し込みとか管理してくれる奴いると助かるんだよな」
「…ふぅん…」
「それにほら、社会人チームなのにマネージャーがいるって格好いいだろ!試合の時ベンチに女子いるのも華があるし!」
「そういうもんなの…?」
「そういうもんだ!」

俺から言っていいのか分からないと言いつつほぼ完璧に説明してくれた兄の言葉は半分聞き流していたが、とりあえずあの女性が「柿田」という名前だということは覚えた。



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