そして、好きだと言って


※先に、大学受験編「4.少しでも長く傍に」をお読みください。

 やれるだけのことはやった、という達成感はある。
 それなりに自信もある。
 最後のベルが鳴って、まっ先に思い浮かべたのは、那津の顔だった。

 家に呼んだことに、深い意味はなかった。けれども、久しぶりに会う恋人と自室に二人きり、という状況で平然としていられるほど、俺はまだ人間ができていない。

 視線はいつの間にか、那津を捕らえる。
 試験が終わったばかりで、肝心の合否はまだわからないのだから、さすがに不謹慎だろう。
 頭ではそう思っていても、体は欲望に忠実だった。
 手を伸ばして那津を抱き込む。華奢な体は、抵抗なくすっぽりとこの腕の中に収まった。
 柔らかな唇を思う存分堪能する。久しぶりに感じる那津の体は、理性という名の枷を、ことごとく崩してくれた。

「那津」
「泰裕……、は……、あ……」

 那津が俺を呼ぶ声に、戸惑いの色が滲む。俺と違って、私立を受験していない那津。後がない分、必死になって勉強していた。結果が出ていないうちからこういうことをするのに、抵抗があるのかもしれない。
 でも、今更止まれない。どうしても、那津に触れたい。抱きたい。
 せめて、と、那津の体をうつ伏せにした。
 俺の顔はきっと、情欲にまみれている。そんな顔を、那津には見られたくなかった。

「ヤ、スヒロ……」

 不安げに俺を呼ぶ那津。
 大丈夫。俺はいつだって、那津のそばにいるよ。

「那津」

 思いをこめて名前を呼び、少しでも俺を感じてほしくて背中に口づける。浮き出た背骨を、ひとつひとつ、確かめるように。

「泰裕……!」

 たとえどんな結果が出ようとも、俺は那津を手放すつもりはないんだ。だから。

「俺のこと……好き?」
「好きだよ」

 不安なら、何度でも言うから、何度でも聞いて。
 そしてその唇で、俺のことを好きだと囁いて。

END

2009/05/18


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