口は禍の元 「確か、先生と師匠ってお付き合いされてるんですよね?何時からですか?」 「そんなことを聞いてどうするんだい」 「記事にするんですよ?」 「何その疑問符…」 渋面の国語教師の質問返しにも、新聞部記者はめげない。 「疑問形には疑問形で対抗しようかと」 「対抗してどうするの」 「まあいいじゃないですか先生。で、何時からなんです?」 「学生の時…だから、十四、五年前からだね。その頃の話をすればいいのかな」 「そうです。できれば馴れ初めから、お願いします」 渋面のわりに案外ノリノリだ。 鳥口は中禅寺にマイクを向けて、テープレコーダーのスイッチを入れた。 ───恨めし気な目付きの関口はこの際、置いておく。 「…で、僕らは付き合うことになったんだ。これが馴れ初め。もっと聞くかい?」 「はい、是非」 本当にいいんだね、と死神は健やかな青年に微笑んだ。 「は、はい。そう言われちゃあもう後には退けません。五十歩も百歩です」 「それを言うなら五十歩百歩だ。諺くらい正しく覚えたまえ。次の小テストに出すよ」 「うへぇ。また間違ってましたか」 「…明日世界が滅びればいい」 ぼそっと呟いた関口の危険な発言内容に、鳥口は目を剥いた。然し中禅寺は至って平然としている。 「せせせ関口先生!?」 「そこはどちらかと言えば "滅べば" が正しいね」 「師匠は落ち着きを払いすぎです!払いすぎた分は戻ってこないんですよ!?」 「場合によっては戻ってくる可能性もあるよ」 そういう問題じゃありません、と鳥口は悲鳴をあげた。 物騒な発言をしはじめた関口は、兎に角危険である。早急に逃げ出さなければ軽く生命に関わる、らしい。 「はいはい。そう慌てなくても大丈夫だよ。ほら関口、毒キノコの胞子なんか撒いてないで、此方においで」 「毒キノコの胞子!?」 一体どういう仕組みで、何処から出ているのだ。 鳥口は青褪めると同時に好奇心を刺激された。…が、今は触れないことにした。 好奇心、鳥をも殺す。 ゆっくり深呼吸して目を開けると、教師二人がキスしているところだった。しかも段々ディープになっていくような。 場所を職員室から離れた学習相談室にセッティングしたのが悪かったのかもしれない。このまま此処に居ては危ない気がする。別の意味で。 「しっ師匠、僕はこれで!」 そして口は禍の元だと身を以て知った哀れな鳥は、大慌てで部屋を飛び出したのだった。 「なんだって拗ねたんだい、今日は。僕が彼に惚気るのなんかしょっちゅうじゃないか」 「…だって、君がわらうから」 なんだ、その可愛い理由。 関口は中禅寺が鳥口に微笑みかけたのが気に食わなかったらしい。要するに嫉妬だ。 「君は不意にそんなことを言うから、もっと愛しくなる」 「…僕だって、君を大好きだ」 鳥口君には災難だったけれど。 互いの想いを確認し合えたから、まあいいか、と。 「じゃあこのままヤるかい?」 「それはヤダ(ドキッパリ」 「……」 「…ああどうしよう、今日は悪夢見そうな気がする…」 一方、被害者の鳥口君はといえば。 「女の子ナンパしようかなあ、益田君でも巻き添えようかなあ」 更に被害を拡げようと画策していたのでした。 Fin. 別名鳥口の受難。ギャグ書きたかったんだ… 日没ラストラリーの鹿尾様へ捧げます。 鹿尾様のみお持ち帰りどうぞ! H23.01.19. [*prev] [next#] |