Schatz | ナノ




月下美人

浅い眠りを繰り返していた関口は着乱れる事も気にせずに寝返りをうった。

(眠れない)

ふー、と長く息を吐いて、額に手を当てる。

(明日も、学校なのになぁ…。眠りかたを忘れて仕舞った。)

見上げる十六夜の月は物足りないような丁度良いような、曖昧な光を窓から差し込ませている。

(…月があんなところに…一体何時だろう)

中途半端に覚醒した頭を抱え、本でも読もうか、と身体を起こした。

しかし起こしたまま何もせずに呆として遠くを見詰めていた関口は、ふと自分の隣に目をやった。

(…中禅寺)

固く閉じられた目蓋が彼の安眠を物語っているようだ。

其れを良いことに、関口はまじまじと中禅寺の顔を見詰めた。

不機嫌そうな仏頂面さえしていなければ、中中の美男子なのだ。

(……)

中禅寺は全く寝乱れることなく、細い頚が滑らかな曲線を描いて一つの彫刻のように月光に照らされていた。

(死んでいるみたいだ)

ほぼ無意識で、其の首筋に触れていた。

思いの外冷えていた指先は、中禅寺の動脈に触れて僅かに温度を取り戻した。

(暖かい)

そう思った途端、其の首筋に噛み付きたい衝動に駆られた。

関口は何の躊躇いもなく、中禅寺の首筋に唇を寄せた。

吐息がかかる程の距離まで近付くと、中禅寺はくく、堪えた笑いを漏らした。

「っ!」

関口が勢いよく顔を離すと、中禅寺は「襲わないのか」と笑いながら身体を起こした。

「お…起きてたのかい」

「否、君が起きるのと同じくらいに起きたのさ。夜這いでもするのかと思って狸寝入りをしていた。」

「よ、よば…夜這いなんて…」

「しないのかい。僕はされたいがね。」

立て膝に頬杖をついた中禅寺の頚が、再び反らされる。

「あ…う…」

関口は頬を羞恥に染めながら、今度は恐る恐る中禅寺の頚に唇を寄せた。

「君の項は如何してか少し甘い匂いがするね。」

「そんなの、しない…よ」

ちゅ、とリップノイズを立てて、関口は皮膚を吸い上げた。

「するよ。形容出来ない、甘さだ。」

そして、歯を立てた。

「っ、食人鬼(グール)の真似か吸血鬼(ヴァンパイア)か、是非聞いておきたいね」

するりと中禅寺は関口の項に触れた。

「ん、」

関口は身動ぎながらも甘噛みを繰り返し、中禅寺は其れを甘受した。

「ふ…」

鬱血のしはじめた頚に夢中で口付ける関口の背中に、中禅寺はゆっくりと手を回した。

「不安、かい?」

「…?」

「噛み癖は、君の不安の現れであることが多い。───無意識だろうがね。」

そう指摘され、関口はゆっくりと頬に、耳に熱が集まって行くのを感じた。

「……君は僕より…僕のことを知っているね。」

「君は自身の事を知らなさすぎるのさ。」

くくくと笑われ、関口は言葉を返せぬままがぶりと噛み付いた。

「っ!…痛いじゃないか」

「愛情表現だ、よ」

ふん、と珍しくはっきりとした口調でそう言うと、今度は中禅寺を黙らせた。

「───嗚呼もう不安は拭えただろう、休もうじゃないか。」

捲し立てるようにして、中禅寺は関口を自分の布団に引っ張り込んだ。

「ど…如何したんだよ、中禅寺」

あわあわとしながらも、大人しく抱きかかえられる関口。

「君が───愛情表現とか言うからだろう。」

「…っ」

「明日も学校だろう?だから、君に負担を掛けるわけにはいかないからね。今日は此れで我慢するよ。」

「我慢…て」

羞恥の余り関口は口を噤んで、中禅寺の袷に顔を押し付けた。

「擽ったいじゃないか。」

薄く笑った中禅寺の、細く冷たい指が頬をなぞり、関口も表情を緩めた。

そして、あれだけ難しかった安栄な眠りの縁へと、ゆっくりと誘(いざな)われていった。



end

『日没ラストラリー』の鹿尾様より相互記念品

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