memo | ナノ



いつもどおりのある日のこと
2012/03/22 20:14

 私と京極堂の間に、妙な沈黙が降りた。私は先程まで京極堂を論破しようと無謀にも試みていたために渇いた喉を潤そうと、湯呑みの中身を一気に呷る。白湯の親戚は既に冷めていたが随分と美味かった。
 京極堂は手元に開いていた和綴じを、床に直接積まれた本の山の頂上に閉じて置く。頬杖をつくと私の横顔を凝乎(じっ)と見詰め、徐に手を伸ばして指の腹で私の口元を拭った。そのまま指を自分の口元に持っていくと、舌を出してぺろりと舐めた。

「関口君」

 左手に紫煙を燻(くゆ)らせながら、私を呼ぶ声は何時になく優しく、私を見詰める瞳は甘く情の焔を湛えている。

───その声に、その瞳に。

───私は、堕ちるのだ。

「おいで」

 私は京極堂の左手から煙草を奪うと、灰皿に押しつけて消した。そっと彼に口接ければ、合わせた唇から微かに息が漏れた。



*120307
*「おいで」は京極堂の決め台詞だと思うよ。
お題:一緒にホモらないか?

タイトルは『君の知らない物語』より



prev | next


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -