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ウチの学校は既に文化祭シーズン到来だ。俺のクラスは喫茶店。
因みに、俺は調理隊長だったりする。
「ん、なかなかじゃねぇか」
俺は家庭科室からクッキーの試作品を両手に持ち、教室に向かう。まあ、ただのバタークッキーだがな。
すると、教室が未だに騒がしかった。聞き耳を立ててみれば、まだ係り決めをしているらしい。
「なーにやってんだ、もう試作品できちまったぜ」
「あ、ユーリ!」
片足で器用ドアを開け中に入れば、クラスの奴らが群がってきた。心配しなくても、全員分あるっつぅの。
「うめー!」
「さっすが、ユーリ先生は違うねぇ」
リッドとゼロスがちゃかすが、俺はあえてありがとよ、と返した。
「シンプルなのが一番美味いんだよ、あと……何が決まんねえんだ?」
ルカが衣装係りが……と小声で言う。結局、俺が衣装係りも兼任する事になった。
家でやればサッサと済むだろうしな。
あっという間に最終下校時刻がやってきた。
家が近い事もあり、ゼロス、ルカ、リッドの四人で帰ることがもうあたりまえになっている。
「さっすがユーリ先生!流石だねぇ……」
特にゼロスは一番仲が良い部類かも知れねぇ。
「でもユーリ先生。お一人じゃ大変じゃね?
ここは幼なじみとして、このゼロス様が手伝ってやろうか?針に糸も通せねぇけど」
「やめろ、逆に面倒だ」
しってんぞ、お前が家庭科の成績が悪いの。布は駅前で買うか、最近セールしてるし安いからな。
そのことを話せば、ゼロスはいきなり気をつけろと言ってきた。
「あの辺り…
吸血鬼が出る
…って噂があるんだぜぇ」
「「「はぁ?(え?)」」」
俺とルカ、リッドの声が重なる。なんだ、ついに頭おかしくなっちまったのか?
「いやマジだって!!
通り魔らしいけど、被害者の首や腕に噛まれた痕があって…
全身の血が抜かれてたんだって!!」
被害者は既に数十人とか脅すもんだから、ルカがこ、怖いよ……と怯えていた。だが、このパターンは
「…さてっ、今の話はどこまでが嘘でしょーかっ」
「言うと思ったぜ、ルカも心配すんな、んなことあるわけねぇから」
ルカの頭を軽く撫でて、ゼロスの噂は大抵嘘だと教えた。
すると、リッドがカラオケに誘ってきた。駅前のカラオケ屋らしく、割引券があるのだと言う。
ゼロスは、うわぁ!すげー無視!俺様しょぼんとうなだれていた。
俺は洗濯物を取り込んでから行くと言う事で、一旦別れた。
襲われても知らねぇからな!とゼロスを尻目に生返事を返した。
「吸血鬼が出る」
そんな噂が流行ってるのは知っていた。
(そういや…ルーク、飯食ったか
一応ネコ缶開けてきたが…)
「帰ったぞって……ん?」
玄関を開けて聞こえてきたのは、テレビの音。グルメ番組のナレーションが聞こえる。
「俺、テレビつけっぱなしてたか……?」
部屋に入って見えたのは暗い部屋に、明かり代わりに点けられたらテレビ。
手に届く場所には、お菓子にリモコン、飲み物に食い終わったカップめんの容器が転がっていた。
その中心にいた人物がこちらに気づいたのか振り返る。
朱い緋色の髪に翡翠の瞳をした長髪の男がカップめんをすすっていた。