0日目 | ナノ

0日目 廻


「……お……り…」

誰?
霧のかかったようなはっきりしない意識の中誰かに呼ばれた。

「お……、リオウ!」

肩に衝撃を受け、急激に呼び戻される意識。

目の前には心配そうに覗き込んでくるワンコを思わせるような少女(とは言っても美人なのだが)立花アヤ。
呆れた様な顔をしている雪の様な瞳と髪を持った蒼禅ソラ。
美しい金髪を左側に流して束ねているこちらもまた美人な山吹ライムが眉間に皺を寄せて立っていた。

「大丈夫?」

そういえばどうしたのだろう?
何か夢を見ていた様な気がしなくも無い。白昼夢とやらか?

そんなことを思いながら目をぱしぱしと瞬かせていると、ソラはからかうように笑って私を追い越した。

「あんま無茶すんなよ。まぁ、屍になったら拾ってやらなくもない」
「ひどい…」

私の返答にライム達も笑い、早く来いと促す3人を追って校門をくぐり抜けた。







普段と何ら変わらない教室でいつも通り雑談をしていると、いつもならホームルームギリギリに来るような担任がもう教室に来た。

「あっ、そこの剣道部4人来て」

酷い呼び方だなぁと思いながらも廊下へ出ると封筒を渡される。
ちらりと見る限り、送り主は書かれていない。

ってか何でアヤのも持ってるんですか先生。彼女違うクラスですよね!?

と、最早ステータスと成りつつあるツッコミを心の中でしながらふと気になってソラを見る。

次の瞬間、彼女の表情に背筋がぞわりとした。
こんなに、冷たい目をする子だっただろうか。
まるで表情が抜け落ちたようなソラの様子に戸惑っていると担任の声が耳に入り、慌ててそちらに意識を戻す。

「取り敢えず体育館へ行ってください。そちらで説明があるはずです。」
「え?この後終業式じゃ…」
「体育館に行けば説明がありますから」

ライムの質問に対し、そう言ってにっこりと笑った先生。
現状の説明になっていなのだがこれ以上説明してくれそうにない。

「…行くか」
「仕方ないしね」

しぶしぶといった様子のソラとそれに同意するライム。もう一度見たソラはいつもの雰囲気で呆れたような表情をしていた。
だがあの表情を気のせいというには、あまりに鮮明に記憶にこびりついていた。






体育館に入るとポツリポツリと人が目に入る。それにしても、

「全員剣道部じゃん」

ライムのその言葉に目を凝らすと確かにここにいるメンバー全員が元剣道部員だった。何人か居ない人もいるが…。

ちなみに元と付くのは私達が既に中学三年生で今が12月だからである。すでに引退済みの身なのだ。


「やっぱりリオウ達も来たねー」

やっ、と手を上げながら近づいて来る鮮やかな真紅の髪をポニーテールにしている剣道部前部長の浦部ユイカ。それに続いてビー玉の様な綺麗な蒼色の瞳の鮫宮トモエと、すらっとした長身に眼鏡がチャームポイントな山城マナが来た。

更に出入り口の方から男子共が入ってくる。爽やか系男子の安孫ケンスケ、寡黙系男子の川崎シュンタロウ、チャラ男の大澤ユウだ。

(うわぁ、剣道部の実力者ばっかりじゃん。)

ほとんどがうちの剣道部でレギュラーを張っていた人や、一目置かれている存在なのである。かくいう私も団体戦で大将をやっていた身である。

と恐らく皆思っているだろうことを考えながら談笑していると、突然明かりが消えて、ステージのスクリーンに文字が映された。

『やぁ、選ばれた少年少女。まずは先程渡されたであろう手紙を読んでくれ』

指示の通りに封筒を開け、中身を見ると、総合順位と適合した神機の名前が書いてあった。

因みに私は2位でスナイパーというタイプの神機になったようだ。

「そーちゃんはー?」
「ん」

ソラに尋ねたユイカに向かって見せられた彼女の手紙の内容が私にも見えてしまった。そして思わず二人で一緒に叫ぶ。

「1位!?」
「えっ!?」

皆と一緒に驚いていると当の本人は至極当然の様な反応を返してきた。

「まぁやってたしな。神喰い」

何でも選考基準がまず、神機に適合したかどうか、そして多少ながら体力テストも考慮。以前いきなり神喰いの資料を渡され、試験を行った時の点数も含め、総合的な観点で選ばれた上位10名が私達だったらしい。

ソラの場合は神機とかなり高い数値で適合し、ゲームもプレイしたことがあって、更にテストでも100点を取ってしまったが故の1位だったとか。

それぞれの結果に声をあげていたが今はそんなことをしている場合ではなかった。

「で、オレ達に何させたいの?」

ソラがスクリーンに向かって尋ねると再び文字が映される。

『それは後程答えさせてもらおう』

「何で答えが……」
「どこかで見ている奴がいるんだろ」

胸糞悪そうな表情のソラを見つめていると、急に右手首の皮膚に焼けるような感覚が走り、悲鳴があがる。

しばらくすると痛みも引いたので見てみると、菱型が重なり合って花のようになっている紋様が血のような赤で痣として描かれていた

『それが神機に選ばれた証だ。念じれば神機が出てくる』

「本当だー」

何の戸惑いもなくやってのけているユイカ。流石だわ…。

それを見て皆やりだし全員出すことができた。

『さあ、全員出すことができたということで我々が君たちを呼んだ理由を教えよう。これから君達には7日間任務に参加し、命がけのGAMEをしてもらう』

「命がけ……?」

皆の顔が不安の色に染まる。

『毎日一つ出される任務を達成し、最終日まで生き残れ。条件をクリアした上で最終日まで一人でも生き残っていれば君たちの勝利だ』

「その条件ってなんや?」

『それは自分たちで見つけたまえ』

「なっ!」

条件がわからないまま進めろと言う謎の人物に目を見開く。
最終日まで生き残れてもクリアできない可能性があるってことだ。

『更なる説明は任務のたびに行う。体育館は安全地帯だ。そこの設備は自由に使ってくれて構わない。では、健闘を祈る』

ブツンッ、と盛大な音を立てて、スクリーンの文字は消え、再び体育館の明かりがついた。

「くそっ」

大澤が床を蹴る。一方的に切られてしまってはこちらから繋ぐ手段はない。

「…でも、やつはこれをGAMEだと言った。…それなら、ちゃんとルールにのっとってあるはずやない?」
「そうはいってもねぇ」

顎に手を当てながら告げられたユイカの言葉にトモエがガクッと肩を落とす。

「最初から詰むようなルールは課してない、ってこと?」

ぴこん、と閃いたようにマナがユイカの言葉を補足した。それを聞いて下を向いていた人たちが顔をあげる。

「なら、任務をこなしながらその条件を見つければいいな!」
「少しずつ条件が解放される可能性もある。気づいたことがあれば全員で共有していこう」
「本当にそうと決まった訳じゃないけど…」
「かと言って何もしないわけにもいかないし」

大澤や川崎の言葉に皆で頷く。ようやく笑顔が戻ってきた。
しかし次の瞬間、今まで口を開かなかったソラが眉間にしわを寄せながら言葉を発した。

「何か変じゃないか?」
「変って何が?」

アヤが尋ねるとソラはこちらを見る。

「何で外から音が聞こえないんだ?」

その言葉で気付く。

車の通る音、鳥の声すら聞こえない。
私たちが体育館に入ったときはまだ生徒や教師の声が聞こえていた。しかし今は人の気配さえも感じないのだ。





何があったのか確認するために探索しに行くことになったが、その前に体育館の設備を見直そうということになった。

あるのはキッチン、シャワー室、布団など最低限の生活用品。

「いつの間にこんなに準備したんだろ…」
「それな」

マナの言葉にソラが同意を示しているとトモエの声が響いた。

「おーい、ちょっとこっちきてー!」

声がした方に向かうと紙袋を抱えたトモエとライム、大澤がいた。

「何や?それ」
「服じゃねぇかな」
「名前書いてある」

ライムに言われて確認すると確かに紙袋一つ一つにそれぞれの名前を書いた札が付けられていた。

「うわ、ぴったりなのでは…?」

早速自分の紙袋を開けて服を体に当て引いたような表情をするユイカ。
すると紙袋に入っていたメモが目に入った。それをつかみ、書いてある内容を読み上げる。

「通常よりも強度を高める加工がされている。任務中はこれを着用すること、だって」
「…いつ測ったんだ」

全員ソラの言葉に同意を示していた。





「何があるか分かんないから半分に分けて行こう。探索行きたい人ー!」

と、ユイカが言うと誰も手を挙げなかった。

「んじゃ、オレが行く」

ソラがそう言うとライム、アヤ、私、マナも手を挙げた。

男子よりも頼られる女子ってすごいわー。
まあ部室とか道場で虫出たらまず最初に呼ばれるのがソラだったもんねー。
少し遠い目をしているともう皆、体育館の入口の方に向かって歩き出していた。
あわててついていく。

「蒼禅」

アビに呼ばれて振り返るソラ。何かを投げて寄越されていた。

「っと……携帯?しかもガラケー」
「丁度あってん。何かあったらそれで連絡し」
「りょ」

アナログとか言わないの。私まだガラケーの民やもん。





「どこから行く?」
「職員室からじゃない?」

何処に行くかを話し合っていると何やら物音が聞こえた。マナが思わずとでも言うように小さく悲鳴を上げた。

それに対して唇に指をあて、しー、とジェスチャーしたソラ。その表情はいつに無く真剣だ。
あの面倒臭がりはどこに行った。

ゆっくりと周囲を警戒しながら、体育館と校舎をつなぐ道に出ようとした時だった。

「走って戻れ!!」

ソラが前方を見据えたまま叫んだ。切羽詰まった様子に全員すぐに指示に従う。
私達のすぐあとを後ろを気にしながら走るソラ。

何でこんなに手慣れているんですか貴方は!!

するとソラの方から嫌な金属音が響いた。

「っソ…」
「振り返るな!さっさと行け!」

神機を出して防いでいるソラと獣の様でありながら鬼のような顔を持つアラガミ。恐らくオウガテイルだろう。

「リオウ、行こう」

アヤに腕を引っぱられて体育館に転がり込んだ。

「げほっ」
「ど、どないしたん皆…?てかそーちゃんは?」
「アラガミと戦ってる」
「ならはよ助けに行かなっ」

アビの声を遮るように一度閉じられた扉が開いて

「助けは必要ない。帰ってきた」

真っ赤に染まったソラが立っていた。

「ひっ」 
「ぎゃー!怪我人出たー!」
「全部返り血じゃ、ボケェ」

アヤの頭にソラのチョップがくい込んだ。痛そ。

「先にシャワー浴びてくる。その後報告するから少し待ってて」





そう言われて数分後…。

「っとまあ、こんな感じだ」
「いや、全然意味わかんねぇよ。てか何の説明もしてないやろ、あんた」

ライムさんのツッコミが的確すぎて笑える。

「えーっと、まぁ生徒と教師共々オレらが体育館で色々やっている間に帰ったみたい。さっさと帰れって黒板に書いてあんのが見えた」

よ……よくあの短時間で見えたな。
思わず呆れたような空気になる。いや、凄いことなんだけども。

「で、この学校の敷地は既にオレらのいた世界から切り離されている。真っ暗だったわ。どうやら逃がしてくれる気はないみたい」

こうなってしまったからには腹をくくるしかないのだろう。

「ま、帰りたいなら7日間生き残って見せろってことなんだろうな」

静寂が体育館を包む。あまりの重さに耐えきれなくなりました。

「へこたれてても仕方ないっしょ。今できることをやろう?」
「それもそうだな」

大澤を筆頭に皆の顔も上がってきた。


このメンバーなら生きて帰れる。この時はまだそう思っていた。
でも、まさかあんな終わり方をするなんて、考えてもみなかったんだ。








『さァ、GAME″ヲ始めヨウ』








―残り10人―


少々ダークな内容ですが彼らの選択を見守って頂ければ幸いです。

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