act.00 忘却メモリーズT | ナノ

act.00


古びた教会の中ではキラキラとステンドグラスが輝き、地面にその色を映している。そんな中椅子で呑気に寝そべる黒髪の少女に呆れたように話しかけた。

「仮にも礼拝堂なんだけど」
【生憎祈る神もいないんでな。また来たのか?宿主】
「また来るも何もここは私の心の中。貴女が居座ってるんじゃない」

彼女は私の能力を具現化した姿だ。黒の長い髪に血のような真っ赤な目。たまに重力を無視したような動きをするが気にしたら負けだ。

私は幼い時に両親と共に事故にあった。そしてその時に前世の記憶と一緒に、この世界が『カゲロウプロジェクト』という様々なメディアで発表され、様々なエンディングを持つ作品の世界だと思い出してしまったのだ。

更に私は事故にあった時、カゲロウデイズに巻き込まれていた。そこで手に入れたのが目を合わせた相手の記憶を消去する能力。何に使えるかと聞かれてもあまり使い道がないのが現状だ。しかも制御できなかった頃は無差別に消してしまっていたからとても苦労した。下手をすれば私も鏡を見たときに自分自身の記憶を消しているかもしれない。今は何故か自我を持つ、目の前でふわふわと浮かんでいる彼女のおかげで暴走することはない。

彼女は自分のことを『目を瞑る蛇』だと告げた。
こんな存在、私も含めて原作には居なかったから私がこの世界に生まれた事で生まれた存在か、はたまた彼女も何らかの事情でこの世界に連れてこられた存在なのかもしれない。

【それで?今日は何処へ行くんだい?】
「今日はシンタローとキーボード買いに行くんだよ。お呼び出しくらった」
【あぁ、あれか】

こんな風に未来を見通した様に話す彼女。やはり、カゲロウプロジェクトを知っているのかもしれない。

【そろそろ戻らないと遅刻するんじゃないか?】
「あ…。うん。じゃあ、またね」
【…ああ、気をつけろよ】

教会の扉に手をかけながら声をかけ、彼女の方を見るが、見送るでもなく、返事をするだけでこちらを振り向くことはなかった。






宿主であるセイハが教会から出ていったのを気配で感じながら過去を振り返る。私がここに住み着いたときのことだ。






ぱちりと自然と目が開き、周りを見渡すが見えるのは随分と寂れた礼拝堂だった。

【ここは…】

椅子から体を起こした瞬間何かが奔流のように頭に流れ込む。
ハンニバルに窒息させられた時に最後に見た化け物は確かに蛇だった。しかしそれが分かったからと言ってここがどこかはわからないままだ。
すると今度は突然自分が今、どんな存在なのか、という内容の“情報”が流れ込んできた。

ひとつ、私が『目を瞑る蛇』であること。
ひとつ、私の力が人の記憶を消すものであるということ。
ひとつ、私が既に一度死んだ存在であるということ。

つまりここは

【カゲプロかぁ】

思わず頭を抱える。結局私はどういう存在なのか微妙なところだ。この世界でエンディングを迎えたら元の世界に帰ることができる、とかだったら親切設計なのだが。
お狐ちゃんにも酷いものを見せてしまっただろう。

【取り敢えずはグッドエンディングを目指すとしますかね】


そうしてそれから数年後、もう何度目かもわからない暑い暑い夏の日を繰り返す日々が始まったのだ。


カゲプロはじめました。本当は夏休み中に始めるつもりだったのですが全く間に合いませんでしたね…。今回もあまり長くはならないと思います。またよろしくお願いします。

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