標的00 少女の涙 | ナノ

標的00


「痛いわよ」
『うん』

少女の身体に化け物の爪が食い込む。痛いと言いながら少女がそれを振り払うことはしなかった。

「馬鹿ね。私に殺されれば良かったのに」
『…そうだね』

化け物からどくとくと流れる血液は少女の白い肌を、美しい髪を赤黒く染める。

『それでも俺は、君にだけは、殺されたくなかったよ』
「…それでも私は、あんただけは私が殺したかったわ」

自分でつけた傷で薄れゆく意識の中、化け物は初めて大切な少女が泣くのを見た。











目を開き、己の手を確認する。光となって消えたはずの身体はしっかりと形を作っていた。他の箇所も問題はないように見える。

次は周囲の状況を見る。そこに見えたの鳥居だった。
手入れの行き届いた様子と厳かな雰囲気にほう、と息を吐く。
道の中央を避け、石畳の階段を上っていく。ここはおそらく私が初めてお狐ちゃんと出会った場所だろう。
しばらく周囲を観察しながら登っていくが、特に何か変わったものが見える訳でも無かった。

いつの間にか階段は上がりきっていた。そして見えたのは真っ白な着物に身を包んだ真っ白な髪を持つ少女だった。その人形のような美しさに目を奪われる。

「来たか、蒼」

鈴の鳴るような声に対し、しゃべり方にはどこか貫禄がある。

「え、と」
『お連れしました、白華様』

どろん、と現れたお狐ちゃんが私の足元で少女に対して頭を下げている。

「ちこう寄れ、それでは話も出来ん」

手招きされたのでお狐ちゃんの後に付いて少女の元へ向かう。
そして少女がパチン、と指を鳴らすと昔ながらの茶屋の外などにありそうな椅子と茶菓子が現れた。

「座りなさい」

促されるままに座る。かしこまった作法なんて全くできないんだが。

「固くならんでもよい。肩の力をぬけ」

少女がお茶に口を付けたのを見て私もお茶を飲む。ほっ、と肩の力が抜けるのを感じる。

「挨拶が遅れて申し訳ない。我は白華。お主の言うお狐ちゃんの主であり、お主をはじめ、GAMEに巻き込まれ、消滅しかけた者達を掬い上げた者じゃ」

やはりこの人がお狐ちゃんの主だったのか。

「え、と、ご存知かとは思いますが、GAMEに巻き込まれた蒼禅ソラです」

そう告げると満足げに頷いたが、一瞬その目に影が見えた。

「あ、の…何か?」
「…すまなかった。我がもっと早くあ奴の異常に気付いていれば防げたかもしれない事象に巻き込んだ」

悔しそうに着物を握りしめる白華様。その様子に全く嘘は見えない。心底悔しい、申し訳ない、といった感情が見て取れる。それを見てゆっくりと言葉を選びながら紡いでいく。

「……確かに、恨みました。何で私が、何であいつらがって今でも思います。…でも、私には必要なことだったんじゃないかって、思えるようになってきました」

白華様は相槌を打つだけで口は挟まない。それを良いことに続ける。

「だから、良いんです。まだ、一つしか終わってないですけど、楽しむことにしました。また、あいつらと笑うために。あいつらにこんなことがあったんだ、て自慢話出来るように」

そう言って笑えば白華様も優しく微笑んでくれた。やはり綺麗な人だ。

「ありがとう、蒼。我は全力でお主がもとの世界に戻れるようサポートさせてもらう。困ったことがあれば蒼狐に言ってくれれば我に伝わる。存分に頼ってくれ」
「ありがとうございます」

いつのまにか私の膝の上で丸くなって眠っていたお狐ちゃんを撫でる。

「蒼狐がそこまで懐くのは珍しいな」
「そう、なんですか?」
「ああ、我にすらそんな無防備な姿を見せてはくれんぞ」

へぇ、と思いながら引き続き撫でようとしたのだが起きてしまったようだった。

『蒼は目を離すと無茶をする上に、主と違って部屋が綺麗ですから』
「…意外」

無茶はして…したか。キンハでハンニバルに食われかけたことが予想以上にお狐ちゃんのトラウマになっているらしい。だがそれ以上に白華様が部屋汚いのが意外だった。

「も、物は戻すよりも床にある方が楽じゃろう!!」
『それをそのままにした結果必要な書類が出てこなくなるのはどこのどなたですか』
「むむむ」
『なにがむむむですか』

お、元ネタ知らないけど聞いたことあるやり取りだ。あとこの様子だと白華様、汚部屋製造機なのかもしれない。

それにしても仲がいいと眺めていると白華様が咳ばらいをしながら椅子に座り直した。

「すまない、はしたない姿を見せた。ここからが本題だ」

居ずまいを正したのに合わせてこちらも姿勢を正す。

「次の世界では他の色人…お主と同じくGAMEの後に消滅しかけていた者たちの事を総じて色人と呼んでいるのじゃが、その色人の一人である赤葉ホムラとコンビを組んで事態に当たってほしい」
「色人…アリスも色人なんですか?」
「ああ」

アリスの姓は紫道。つまり苗字に色が入っているのか?全員に?そんな偶然あるだろうか。

「ちなみに全員で十人おる」
「十人!?」

まて、そんなに長く続いていた事象を私はぶっ壊してしまったのか?大丈夫か?

「安心しろ。そもそもあの世界自体がいわゆる違法建築じゃ。だが建物であるのは事実。撤去にもそれなりの手間がかかるじゃろ?今はその撤去作業中といったところじゃ」

作ったなら後片付けもしていきなさい。と思わず言いそうになるがここで言っても仕方がないと一度深呼吸をすると白華様がまた申し訳なさそうにしながら告げた。

「すまないな、今回もまだ異物が何かわかっておらぬ。先行している赤から連絡がないという事はまだ現れていないと考えるのが妥当じゃろう。警戒して事にあたってくれ」
「承りました」
「蒼狐、お主も頼んだぞ」
『御意』

お茶もお茶請けも空になった。白華様が立ち上がるのに合わせて立ち上がる。
もうそろそろ行くべきだろう。

「それと、今までの世界で得た力は余程のことがない限り使用が可能じゃ。ただし、回廊のみ世界の壁を超えることはできない。それだけは理解しておいてくれ」
「はい。あの、それで次の世界は…?」

そう聞いたのに白華様はにっこりと笑うだけだった。嫌な予感がする。

「行ってからのお楽しみじゃ」

ふわ。

足元がおぼつかなくなる。肩に乗っていたお狐ちゃんですら珍しく目を点にしていた。

「…ゑ?」
「良い旅を」

にっこりと良い笑顔。
下は、見えない。
もう一度白華様を見る。
やはり良い笑顔。
身体が下に引っ張られた。

「あああああああああああ!?!?」
『次帰ったら書類地獄に堕としてやりますからね!この愉快犯!!!』
「それはいやじゃぁ!」
『ならやるなぁ!!!!!』

こんなに叫んでるお狐ちゃん初めて見た。
そして私はあまりの落下距離の長さに目を閉じる。

『蒼おおおおおおお!!!目!開けて!!!相棒が落下死、ショック死とかワタクシ嫌ですううううう!!!!』

お狐ちゃん、私の事相棒って思ってくれてたんだ…。それだけでも幸せだわ。
そんなことを思いながら私は意識を手放した。




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