ぼくらが巡る季節

卒業式

※シリアス要素、特殊設定を含みます。


 柔らかい春の陽気に包まれてとは言い難い、暦上は春の一日。桜なんて毛頭咲いている気配もない。桜なんて入学式に咲くものだろう、と思う気が無きにしも。
 黒の礼服を身につけたアタシは他の三人の到着を待つ。一人でいった所で仕方がないし、面白くもない。
「で、なんであんた達は揃いも揃ってブレザーとかで来るかなあ」
 アラシ達は確実にやると思ったけど、ユキまでやるとは思っても見なかった。
「だって、雰囲気だけでも味わってみたかったんだよ」
 後はノリだノリ、と有耶無耶にしようとする。
「ワカバもやりたいならやればいいと思うよー?」
「教師役ってことにすればいいだろ。今更着替えるのも面倒だし」
 こっちに来るのは珍しいことだから、浮かれているんだろう。もちろんアタシを含めた全員が。
 基本的にこっちの世界は眺めるだけしかしてこない。場所の複製なんて簡単にできるし、真似ならいくらだってできる。人がいないだけだ。
 だから、人がいて欲しい時にはアタシ達は下に降りるんだ。人に見えやしないけれど、こちらが楽しむためにね。
 アタシ達は人じゃない、何かだ。変わりゆく季節を表すために人のように、なっているそれだけなんだ。まるで生きているかのように、日々が過ぎ行くのを感じるのがアタシ達なんだ。
 まあ簡単にいえば、何が有るわけじゃないから楽しんでしまえというわけだ。
 適当な苗字をつけて三人の名前を呼ぶ、あるものは真摯に、あるものは冗談めかしく返事をする。
 証書なんて無いし、無から有を生み出すのはここじゃ出来ない。ただ名前を呼んだだけ、それでも誰かに見送られている気分になるんだから単純だ。
 いつの間にか、退場曲が流れ出していた。もう潮時だろう。
「さて帰ろう、今日は何が食べたい?」
「ワカちゃんの料理ならなんでも!」
「それじゃあ、答えになってねえだろうが」
「ボクはー、お好み焼きがいいなあ」
 そんなくだらない事を話しながら元の場所へ戻る。今までと変わりない日々へと戻るんだ。

21014/3/3


春の子視点でシリアス風味。


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