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五枚の花弁が実る春
二.休みたい遊びたい恋したい

「飽きた、つまらん」
 握っていたペンを放り出して伸びをする。
「頑張ってるねー、ってあれ、休憩?」
 受験生ってのも、大変だもんね。なんて言って、笑いかけてくる。
 一回り以上の歳の差があるはずなのに、笑顔からはそれを感じさせない。若いというべきか、子供っぽいというべきか。
「邪魔しに来たんだったら出てってください」
 ろくな事にならないのは経験からすでに学んでいる。といっても、大した知り合いではないのだけれども。
「いや、行き詰まってるなら気分転換は大切だと思うよ?」
 そういった所で、この人の提案に乗る訳にはいかない。
「絶対、行きませんからね!」
「そんなに、警戒しなくったっていいじゃないか」
 とって食うわけでもないんだから。なんて、笑っているけれど、いいように使われることは全力で避けなければいけない。
「前みたいに、シンデレラさんの痴話げんかの仲裁なんてしませんからね!」
「この頃あの二人は仲いいから大丈夫だよ」
 それよりも、という言葉が続くかと身構えるけれど、何もない。
「そういえば、景色いい所見つけたんだけど、一緒に行かないかって赤ずきんちゃんが言ってたよ」
 思い出したかのように、言葉をこちらに向ける。
 赤ずきんこと明石さんは彼の仕事場の女性で、数少ないまともな人である。彼は『DTKM』とかいう、フシギな会社を設立しているわけで。内容は科学が発展したこの時代にありえないくらいファンタジーなものだし、一言では言えないので省略するけれど。
 とりあえず、明石さんの提案なら問題ないだろう、と頷いたのが運の尽きだったんだろうか、彼に手を取られあっという間に移動してきた場所は、シンデレラさんたちが住む世界なわけで。
「どうして、こんな場所にいるんですか?」
 そりゃあ、こっちに飛んできたからに決まってるじゃないか、という彼にそうじゃない、と噛み付く。
「お花見でもしようかなーって」
 今は冬だから向こうのほうじゃ花なんてなかなか見かけないからねー。だから、こっちでのんびりしようって、企画したんだよ。
「みんなで見たほうが楽しいと思わないかい?」
 そういって、こちらを向くその顔は純真な少年と言っても違いないものだったし、そんな顔を見せられたら怒るわけにもいかない。
「みんなが来る前に、見せたいところがあるんだ」
 こっちだよ、と腕を捕まれ引っ張られる。わけも分からずに、ついていくしか無い。止まろうとしても、転けそうになるから無理だし。
「到着、ほら前向いてみて!」
 そう言って、顔を上げると、そこに見えた景色に言葉を失った。言葉にしようとしても、ため息しか出てこない。
「ねえ、すごいでしょ?」
 一番に見せたかったんだよね。喜んでくれると思って。こっちに来るぐらいじゃ、そんなに時間は過ぎないと思うんだよね。
 大丈夫、だよね。といまさらな事を言い出すので、吹き出してしまった。
 え、なにかおかしなこと言ったかな、と首を傾げる姿が更におかしくて笑いが止められそうにない。
 そんな私の様子を見て、彼も笑い始める。ただただ笑っている二人組なんておかしいだろうけれど、いいのだ。
 そこに現れる、二人の人物。
「案内してくれるって、言ったのに放置ってどうなんですかね」
「まあ、俺としては赤ずきんちゃんと一緒に入られるからいいんだけど」
「セクハラで訴えるわよ」
 まあ、もうちょっとだけ二人の時間を作ってあげようと、笑う二人を見守っていた。

Write:2013/12/27 Post:2014/1/1



行き詰まった時は少しだけ、違う景色を見てみるのもいいかもですね。



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