Medium/Series

五枚の花弁が実る春
一.不安と現実とプレッシャー

「はあ……」
「どうしたんだ、人の家まで来てため息なんて」
 怖いんです、なんて直接言えるわけもない。彼は私とは違う。この人はなんでもこなせるすごい人なだけだ。
「受験ですよ、受験。全く嫌になっちゃいますよ」
 そう言って首を回すと、問題集に向かう。
 受験、大学受験。高校の時とはわけが違う。あの時はなんとかなるかなー、が通じた。コレはあの時とは全く違う異質なものに私は感じてならない。
「大学に行きたいならしょうがないだろ」
 と、よくわからない言葉が飛んでくる。まあ、そうなのだ。就職という手だって有るには有るのだ、そんなこと私には出来ないけれど。大学に行きたい、そういう気持ちは強いのだ。でも、なかなかうまくいくもんじゃない。やればやっただけ、力がつくなんて確実にありえないことだといえる。
 両親からの期待だって、なんで一人っ子なんだろう、と思うくらいにはキツイものがある。自分たちは行けなかったから、子供には行ってもらいたい、という気持ちがあるのをひしひしと感じすぎて辛い。いや、応援してくれるのはありがたいんだけどね、期待があまりにも重いんだ。
 だから、家から逃げ出して、ここにいるわけなんだけど。
「暗くなる前に帰れよ」
 そうやって頭に手をポンと置くと、彼は部屋から出て行った。
 彼はどうしようもなく不安定な私をどう思っているのだろう。本当に嫌であれば追い出すのだろうから、嫌ではないはずだ。ってこんなふうに現実逃避してる時間は無いんだった。
 狙うはただひとつ、私はそこに受かるんだから! だから、やらなければ。やらないで受かるほど甘いモノじゃないし、私はそんなにも賢い人間じゃない。
 何も考えずに、ただひたすらに勉強して、それで大学に合格するしか無い。私が今できることなんて、限られている。果報は寝て待て、人事を尽くして天命を待つ、の状態にしなければいけないんだと思う。
 なにもしないで、漫然に過ごすなんてのは余裕がある人間がすることだ! 私はやらねば。
「あんまり熱くなりすぎて、倒れたりしないようにな」
 いきなり声がしたので驚いて振り返ると、彼が何かを持ってドアの所に立っていた。
「差し入れ、糖分補給も大事らしいから」
 そう言って、手渡してきたのはアイスで。二つにわかれている片方は彼の口に収まってるわけで。それを見ていたら。
「俺が買ってきたから、半分食べる権利くらいあると思うんだけど?」
 さっさと食べないと、溶けるよ。なんて言われて慌てて封を切って食べる。
 不意打ちの甘さと冷たさに、変な声を漏らす。それを見た彼は珍しく無表情を崩す。
 よし、決めた。絶対合格して、この人の無表情を驚きで染めてやる。
「はっへへふははい」
「何言ってるかわかんない」
 けどまあ、楽しみにしとく、と彼は楽しそうだった。

2013/12/21



自分のためというより、誰かのためにの方が頑張れたりする。


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