piège-1 | ナノ
NTR/脅迫/撮影



ピンポーン


鍋のシチューがコトコトと煮える小さな音だけがしていた部屋に、インターホンの高い音が鳴り響いた。珍しく早いな、定時で上がれたのかな。と独り言を言いながら鍋の火を止めて、エプロンを外しながら玄関に向かった。ドアのロックを解除して、重たい玄関の扉を開く。


「おかえり、修ちゃ…」



そこに立っていたのは、大好きな俺の彼氏じゃなかった。








修ちゃんと一緒に暮らし始めたのは今から半年前、付き合い始めてから一年程立った頃だった。商社勤めの修ちゃんと、フリーでデジタルデザイナーをしている俺とでは、生活リズムや休日がなかなか合わない。なかなか会う時間が作れないなぁ、いっそ同棲でもしちゃう?とふざけて言った俺に向かって、修ちゃんはいいなソレ、と笑った。そして次の日には不動産屋から候補の部屋の資料をいくつかピックアップして俺の家に持ってきた。
修ちゃんは口数がそんなに多い方じゃないけど、些細な行動や言葉のひとつひとつが優しくて暖かい。今までロクな恋愛をしてこなかった俺にとって、修ちゃんは生まれて初めて俺のことを真っ直ぐ愛しくれた人で、人を愛することの大切さを教えてくれた人だった。
同棲を始めてからもお互いの仕事が忙しいのは変わらなかったけど、在宅ワークの俺は修ちゃんが当たり前のように自分の元へ帰ってきて、自分の作った食事を食べてくれることが嬉しかった。修ちゃんも、家に帰ってきて当たり前に奏多がいるってなんだか幸せだな、と笑ってた。



その日は1週間かけて作ったデータをクライアントに提出した次の日だった。別件の締め切りまでは結構な時間がある。実質完全にオフだ。いつもより丁寧に部屋を掃除して、いつもより少しだけ時間をかけて夕飯を作っていた。
インターホンの音になんの疑いもなく出てしまったのは、それがオートロックの呼び出し音ではなく玄関の横のベルの音だったからだ。鍵を持ってるくせに、修ちゃんはいつもベルを鳴らす。奏多に出迎えてほしい、という恋人の可愛い小さなわがままに俺はいつも付き合っていた。想像していたよりも早い帰宅に、つい浮かれてしまっていたのも悪かった。


「え…、あ、すみません。」


ドアを開いた先に立っていたのは、作業着を着た2人の男だった。2人とも俺と同じ20代後半くらいに見える。1人はスポーツ刈りの黒髪で、もう1人は暗めの茶髪にタオルを巻いている。人違いに気づかずいつものように挨拶をしてしまったことに少し恥ずかしくなった。つい視線を下げた俺に向かい、男たちはにっこり笑って話し始めた。



「火災報知器の点検に来ました。」
「え…」
「あれ、エントランスに貼ってあったお知らせ見てないですか?」


そんな張り紙あったかな…と思いつつ、最近部屋からあまり出てなかったし、自分がうっかり見落としていただけかもしれないと勝手に納得して、2人を家の中に入れた。


「すみません、すぐ終わりますんで」
「リビングからいいですか?」


靴を脱ぎながらそういう男たちに、わかりました、と返事をしてリビングへ通そうと背を向けた瞬間、後ろから腕を思い切り引っ張られ、男の1人に抱きしめられて口元を掌で塞がれた。


「…っ!?…ん、んぅ…!!」
「静かにしろ」


耳元で吐息交じりの小さな声がする。一瞬何が起きてるのかわからず反応が遅れた。ドクドクと鳴る心臓がうるさい。俺の前に立って笑う茶髪の男の顔を、目を見開いて見つめる。


「無防備だな。ダメだよ知らない奴簡単に部屋にあげたら」
「バーカ、俺が調達してきた衣装がよかったんだよ。感謝しろよお前」
「あー、コレコスプレ系じゃなくて本物なんだっけ?確かにリアルだよな、いい仕事してくれたわ」


2人の会話から只事ではない気配を感じて、必死に体をよじって逃げ出そうと暴れた。だけどインドア派の軟弱な俺の抵抗は、立派に筋肉のついた男の二の腕にあっけなく抑え込まれてしまう。それでも全身の力を振り絞って手足を動かそうともがいていると、低い声で「暴れんな」と言いながら男が口を塞いでいた手を外した。今だ、と大声を上げようとして空気を吸い込んだ瞬間、先ほどまで口元にあった手が今度は首を掴んだかと思うと、グッと力を込めて締め上げ始めた。


「……っ、ーーっ!!」


突然気道を塞がれ、酸素が回らなくなった体は硬直して、頭には血が上った。やめて、と声を出そうとしても叶わなかった。殺される、と思った瞬間、首を締めていた右手と腰を抱えていた左手が同時に離された。上手く立てなくてその場に座り込んだ俺は、必死に呼吸をしながら自分を取り囲むように立つ男たちを見上げた。照明の逆光で暗くなった2人の顔は、ガタガタ震えてる俺を面白がってるとさえ思えるような、悪意に満ちた笑顔が浮かんでいた。涙がじわじわと滲んで視界がぼやける。



「わかった?大声出そうとしたり暴れたりしたら殺すぞ。」



しゃがみこんで俺の腕を掴んだ男の言葉に、黙って何度も頷いた。殺されるかもしれない、という恐怖が頭を支配して震えを抑えることができなかった。
立て、と服を掴まれた。立ち上がろうとしても腰が抜けてしまったのか自力では無理だった。2人は俺の脇の下に腕を差し込んで無理矢理立たせると、廊下を進んでいった。酸素が回って少しずつ働き始めた頭は、強盗にあっさり侵入を許した数分前の自分をずっと責め続けていた。リビングのドアを開けて部屋に入ると、カーペットの上に座らされた。どうしよう、どうしよう、とぐるぐる考えながら着ているパーカーの裾を右手で強く握る。左手は黒髪の男に掴まれたままだった。


「なんかめっちゃいい匂いする。あー、これ作ってた最中だったのか」


キッキンの方から茶髪の声がした。
さっきまではいつも通りだったのに。いつも通り部屋の掃除をして、夕飯を作って。修ちゃんが帰ってきたら一緒に食べて……。

修ちゃん。

殺されたくない。修ちゃんに会えなくなるのは嫌だ。恐怖で閉まっていた喉を無理矢理開いて声を出した。


「……ぁの…、つ、通帳と…印鑑…、あっちの棚に……っ」


部屋の奥の棚を指差しながら男の顔色を伺う。また首を締められないように小さな声でしどろもどろに発した俺の言葉に、男は少し面食らった様子で数回瞬きをして、「あー」と所在無さげな声を出した。それとは対照的に、茶髪の男はケラケラと笑いながらキッチンからこちらへやってくると俺の目の前に立って小馬鹿にしたように見下ろしてきた。


「何?俺らのこと強盗だと思ってたの?おっかしー。奏多さんって結構天然?」
「…っ、な、んで…」


なんで俺の名前、と狼狽えていると男の笑いは大きくなる。

「こーゆーシチュエーションで強盗じゃないとしたらさァ、もうあとはこれくらいしか思いつかないでしょ?」

目の前の足が上に上がった、と思った瞬間、その足は俺の肩を軽く蹴った。突然のことに思わず後ろに倒れこむと、黒髪の男が俺の両手首を頭上に持ち上げ床に縫い付けた。上に覆い被さってきたもう1人は、俺の片足の膝裏を掴んでグイッと横に広げ、もう片方の手でジーンズの上から股間を撫でた。


「…っ!!や………っ」


その瞬間、俺は2人の目的を明確に理解してしまった。それと同時に目の前が真っ暗になって息が詰まった。
先ほど殺されそうになったことなんて忘れて、手足をバタつかせて嫌だと声をあげれば再び口を塞がれた。


「ん゛ーっ!!んぅ゛ぅ!」
「あーもう暴れんなって。いいだろ金と違って減るもんじゃねぇんだから。こっちの方がマシだろ?」
「どーせ彼氏とヤリまくってんでしょ。同棲してるくらいだからな」


名前を知られていた上に、なんで修ちゃんのことまで、と目で訴える。かわいいねー、と茶化しながらファスナーを下げられ、手が中に侵入してきた。全身を捩って逃げ出そうとしても簡単に押さえつけられてしまい、自分の非力さを恨んだ。


「俺ら結構時間かけて調べたんだぜ?奏多さん。在宅の仕事してるとか、彼氏がいつも金曜日は帰り遅いとか。」
「ラブラブだよねー。朝わざわざ玄関の外まで出て見送りしてやったりさぁ。たまに寝起きの顔で出てきてたけど、あーゆーのよくないよ。そんな無防備なところ見たらますます犯したくなるじゃん。俺らみたいな悪いのに狙われちゃうよ」


ストーカーのような行為を楽しげに話す2人に、本格的にヤバい相手だと今更理解した。修ちゃん以外の男に抱かれるのだけは嫌だ。修ちゃんを裏切ったりなんかしたくない。唯一自由に動く頭をブンブン振り回し、押さえつけられている手足も拘束を解こうともがく。


「んんん゛っ、ンーっ!!」
「健気だねー。いいよいいよ、オレ貞操観念強い子ちょー好き。……でもマジで大人しくしてた方がいいよ」


ズボンから手が抜かれたかと思うと、トン、と左胸に何か固いものがが当てられた感触がした。瞑っていた目を開いて視線を下げると、心臓を狙い打ちするような位置に、包丁の先端が軽く添えられていて目を見開いた。先ほどまで自分がキッチンで使っていたものだ。ヒュッと短く息を吸って茶髪の男と目を合わせると、笑顔で脅される。


「死んじゃったら彼氏さんにも会えなくなるよねぇ?」


目が完全に座っている。わかった?と問われ、恐怖で硬直した頭を必死で縦に振ると、口を塞いでいた手がゆっくり離れていった。汗と涎が混ざったものが小さく水音を立てる。浅く呼吸を数回してから、ぎゅっと唇を堅く結ぶと、いい子、と頭を撫でられた。



「あ、喘ぎ声なら大歓迎だから。いい声聞かせてねー」
「大丈夫大丈夫、おとなしくしてりゃ痛い思いはさせねぇから」


そう言いながら茶髪の男は俺のジーンズを足から引き抜いて、床に放り投げた。太ももを撫で回された後、焦らすように指先で太ももの付け根を何度も擦られてゾクゾクと鳥肌が立つ。


「っあ、う、…っ」
「敏感だなぁ…まだ足しか触ってないのにちょっと勃ってきてる」
「いや…っ、あ、あ…っ!」


下着の上から形をなぞるように触られると、焦らされていたせいか一際大きな刺激になって快感が腰に押し寄せた。男の手から逃げるように腰を引いて胸を反らせる。


「おーい、逃げない逃げない。」
「そんなに胸突き出して、なに、乳首触って欲しいのか?」


黒髪の男が手を伸ばしてパーカーの上から乳首に爪を立てた瞬間、腰が跳ねてビクビク痙攣した。厚手の生地の上からだというのに、すっかり性感帯になっているそこは刺激を与えられれば馬鹿正直に快感を拾ってしまう。


「あっ、やだ…っ!あっ、あ…っ」
「うわ、超感じてんじゃん。」
「乳首開発済みかー。エロいね」


しばらく抓ったり擦ったりして遊ばれた後、上に着ていたパーカーの裾が首元まで捲られた。弄られて熱を持った乳首が外気の冷たさにまで反応してしまうのが恥ずかしかった。
キツく目を瞑って震えていると、突然乳首にヌルヌルとした生暖かいなにかが這うような感覚がして思わず声が上擦る。黒髪の男が、ねっとりと唾液をたっぷり絡めて熱に膨れた俺のそこを舐めていた。歯で甘噛みされたり、音を立てて吸い付いたりされたりすると我慢しないといけないのに声がどんどん大きくなる。
何かを掴んで気を紛らわそうと空中をさまよった手は、すぐに男に捕まってしまう。


「ひ、ぁあっ、あぁあっ、いやぁ…っ」
「ふはっ、奏多さん乳首どんだけ好きなの?ちんこ超ビクンビクンしてる。」
「や、やぁ、あ、あっ!」
「マジでエロいなー。彼氏に相当可愛がられてんだろ、コレ」


彼氏、という単語にフラッシュバックする大好きな恋人の優しい声。


『奏多』


「ぅ、う゛ぅぅ…っ、しゅ、しゅうちゃん、しゅう、ちゃ……」


改めて自分の置かれてる状況をハッキリと自覚して悲しくなった。大好きな人がいるのに。ここは大好きな修ちゃんと暮らす大切な家なのに。自分が馬鹿で無防備なせいで、見ず知らずの男たちに犯されようとしてる。


「ひっ、ぅぐ、しゅうちゃ、う、ひっく、うぇぇ…っ」


大粒の涙が頬を伝っていくのがわかった。いつの間にか自由になっていた両手で目をこすっても次から次へと溢れ出てきてキリがなかった。パーカーの袖が涙を吸収して色を変えていく。


「あーあー、ガチ泣きしてんじゃん」
「彼氏、しゅうちゃんって言うんだ?」


怖い。早く帰ってきて。修ちゃん。
現在の時刻を確認しようと壁にかかった時計に視線を向けたけれど、涙で滲んでしまった視界のせいで、針が何時を指しているのかが全くわからなかった。
両足をガバッと大きく広げさせられ先走りで濡れた下着ごと自身を握られる。上下に扱かれながら頬をねっとり舐められて気持ち悪さに鳥肌がたった。ゾクゾクという寒気が全身を流れて下半身に響く。


「…っ、や、やめて…っ!いやぁっ、たす、たすけて、やだ…っ」
「奏多さん本当彼氏のこと好きなんだねー。でも哀しいねぇ、体は他の男でも反応しちゃうんだからさぁ」
「あっ、あ、やだぁっ、や、あんっ」


さっきまでどこかイタズラを楽しむような雰囲気だった2人が、いつのまにか肉食獣のような眼をして荒い息を吐いていた。その上俺の性器や乳首を弄りながら、自分のモノも扱いている。修ちゃんの名前を呼んだせいで余計に煽ってしまったのかもしれない、と後悔しても遅かった。


その時、ピコン、とどこかから音が鳴った。テーブルの上に置いてある俺のスマホだった。その音に気づいたのは俺だけじゃなかったようで、黒髪がスマホを手に取り画面を覗いた。そして俺と目を合わせると、ニヤ、と不敵に笑った。


「しゅうちゃん、今日も残業で遅くなるってよ。たっぷり楽しめるな」


頭を鈍器で殴られたようなショックに、声も出なかった。僅かな希望さえ断ち切られて、全身の血が凍りつくような感覚がした。


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