生徒会長と保険医2 | ナノ



「落ち着いた?」


篠原を奥のベッドに座らせ、周りのカーテンを閉じた谷口は隣に座り顔を覗き込む。目の周りは涙で濡れていたものの、呼吸や意識は平常時と同じ程度に落ち着いていた。できる限りの優しい声色で谷口は話しかけた。


「辛いこと思い出させて申し訳なかったな。だけど知ってしまった以上は校医として見逃せないから…」
「………………」
「心のケアというか……少しカウンセリングしよう」
「…カウンセリング……」


虚ろな目をした篠原に向き合うように斜めに座ると、目をまっすぐ見つめ、神妙な顔で問いかける。


「他はよくわからないけど主犯格っぽいのは一年の城田だな?」
「…っ、あ……、そう、です」


初っ端からあの夜のことを直球で聞かれ、篠原は露骨に動揺した。それに気づいていないはずはないのに、一切構わず質問を続ける。



「何をしに城田の部屋に?」
「…騒音、の…注意を…」
「いつ?」
「……、き…金曜日…」
「城田の他に何人いた?」
「ご、にん…」


段々と声が小さく弱々しくなっていく。俯き絞り出すような声で答えていく篠原の体はカタカタと震え、それを抑えようと手をきつく握りしめた。再び目に涙を浮かばせ始めた篠原が谷口の方へ顔を向ける。



「せ、せんせい…、これ以上は、……っ、ご、ごめんなさい……」


縋るように見つめる篠原の顔色は再び青白く筋が浮かんでいた。逃げ出してしまいたい気持ちを心の中に押さえきれず、ベッドから腰を上げかけた瞬間。


「しかたないな」


そう言い立ち上がった谷口が、篠原の前に立ちはだかりその顔を見下ろすと影が落ちた。それにすらビク、と怯えてしまうほどのトラウマに苛まれている篠原の、肩に手をかける。



「じゃあここから先は体に聞こうか?」



ドサッ、
視界がひっくり返り、シーツの音とスプリングが軋む小さな音を背後に聞いた篠原の体に保健医は跨り、手首を掴んでベッドに押し付けた。谷口の後ろに白い天井が見える。



「え…?あ、なに…こわい、です…っ、せんせい、」



影で暗くなった谷口の表情がぼやける。得体の知れない恐怖を感じた篠原が手を振り解こうと腕に力を入れた瞬間、ようやく体の異変に気付いた。



「……っ、…!?」
「そろそろか、アレなかなか効き始めるの遅いんだよな」


独り言のように呟く声が耳の中を通り抜けていく。
体が、うまく動かない。動かないと言うより、チカラが入らず動かせないという感じだった。全身の筋肉が弛緩してしまい役割を放棄しているかのように、脳からの命令が体に届かず思い通りにならない。混乱する篠原の頭は、それでも1つの答えに辿り着いた。

紅茶に、何か入れられた……?


「や…、う、あぇ……、えう、う……、…??」


言葉で抗議をしようと口を開いても舌の筋肉まで薬に侵されてしまったのか、呂律が回らず意味のないうわ言になったしまったことにますます篠原は混乱した。誰かに助けを求めようとカーテン越しにドアの方へ視線を向けると、さっき鍵しめたし不在の札も出しておいたよ、と無情な言葉を吐かれる。



「どこをどういう風に触られた?」
「い…っ!う、うあ、やえれ、せんぇい、」
「上はそんなに触られてなかったな、下だけ脱ごうか」
「っ!!あ、あっ、やれす、や、やぁあっ」



ズボンにしまわれたワイシャツの裾を引き抜き、手を中に侵入させて腹や胸を撫で出した谷口にゾワッと全身に鳥肌が立つ。ベルトを外す金属音が実際よりも大きな音に聞こえた。抵抗したくて全身の力をこめ腕を持ち上げようとしても、指先がわずかに曲がるだけだった。心と体が一致しないことに篠原がますますパニックを起こす。
何よりも怖かったのは体が動かず呂律の回らない状態であるにも関わらず、意識だけはいつも以上にハッキリと覚醒していることだった。薬の作用で朦朧としたりできればまだ精神的な負担が小さかったかもしれない。
ズボンとパンツを引き抜かれるときでさえ、ろくな抵抗ができず、谷口の意のままに脱がせやすい格好を取らされた。


「いあ!!あ、ふっ、や!!」
「あー、太ももとかお腹痣になってるな。可哀想に」
「う゛、いあら、やら、いあぁっ!!」
「誰に、何回殴られた?」


谷口がそう言った瞬間、篠原の腹にある痣めがけて拳が飛んできた。予期していなかった容赦ないパンチに、体が物理的に跳ね上がる。


「ぅぐっ、…!?あ、あ゛ぁあっ!!」
「ほら、ちゃんと思い出して答えろ。何回殴られた?」
「ひっ、やえて、えう、ぅ、あ゛、あ」
「思い出せるまで殴るか」
「ぎ…っ!!う゛、ううう゛ぅ…!」


ズシリと重い拳が、腹や太もも、鳩尾の青黒い痣の上に何度も落ちる。頭の回転の早い篠原は、この暴力は自分が答えない限り続くものだとすぐに察知して精一杯舌を動かし声帯を震わせた。



「う゛っ、ぐっ、あがんな、わがんぁい、う゛ぅうっ!」


ショッキングな出来事をできうる限り記憶の奥底に閉じ込めようと努める篠原の脳を、谷口が言葉のナイフで抉っていく。言われた通り殴られた瞬間や箇所を思い出そうと勝手に働いた脳に、心が拒絶反応を起こして喚き散らす。


「まぁ、そりゃそうだよなぁ…」
「う゛ぅ、はぁっ、はっ、あ、…、ごほっ、…っ、」


篠原が呼吸を整えようと必死で息を吸うと、喉が一気にかさつき思わず咳き込んだ。
谷口のこの行為の目的が、カウンセリングやそれに準ずる行為などとは全く関係のない、加虐をただ楽しむためだけのものだということは火を見るよりも明らかだった。篠原が泣けば泣くほど、表情を苦痛に歪めれば歪めるほど、谷口の目の興奮の色が濃くなり、徐々に息も上がっていく。喉の奥で妙な音を鳴らしながら必死で呼吸する篠原の耳元に唇を寄せると、小馬鹿にするような口調で茶化した。


「男にレイプされてトコロテンしちゃう淫乱生徒会長篠原くん。もともとそっちの気があったんじゃないか?」
「はぁっ、いあぁ…っ、ひが、ひがいあす、」
「でも見た感じ最低2回は射精してるよな?気持ちよかったんだろ」
「やら、いぁ、やぁぁ……っ」
「副会長の澤井が知ったらどう思うかな、」
「……っ、うぁ…!!」


澤井、という単語に篠原は露骨に動揺した。頭に浮かんだ友達の顔に、混乱していた思考が現実に引き戻される。
バレたくない。これ以上、何一つ失いたくない。


「いあな、いあないれ、くらさ、や、や、いぁあああ……」


耐えられなくなった篠原は目をきつく瞑り視界を閉ざそうとするが、やはり瞼の筋肉すら100パーセント思うようには動かない。半分程に開かれた瞼から見える僅かな視界すら、涙でぼやけていた。
谷口が篠原の前髪を掴んで引っ張り頭を持ち上げる。唸る篠原に構うことなく揺さぶると、号泣の嗚咽とともに逆流した唾液が口の端からごぷっ、と溢れ顎へ伝う。



「あーあー、こんな惨めったらしい顔になって…ファンの女の子たちが見たら泣くぞ」



口の端を吊り上げて笑う谷口が、篠原には悪魔に見えた。


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