生徒会長と保険医1 | ナノ
薬物/レイプ/フラッシュバック/過呼吸



その後どうやって部屋に戻ったのか、篠原はあまり覚えていなかった。とにかく誰かに見られる前に部屋に帰らなくてはいけないと、放り出された服や下着を拾いボロボロの体に鞭を打ってふらふらと歩いたが、穴から垂れる精液や酒が廊下や階段にポタポタと落ちた。ドアを開けて自室に入ると緊張の糸が切れたように倒れ込み、冷たい床の上で眠った。城田の部屋で犯されている間、疲労がピークに達し何度か気絶するように意識を失いかけたが、その度殴られ蹴られ強制的に覚醒させられていたため、睡魔が容赦なく襲う。酷い腹痛で目が覚めた時には昼の12時を回っていた。
トイレに籠りしばらくして落ち着くと、ふらついた足取りで浴室へ向かう。歪む視界の中
震える手で下着と部屋着を身につけ、髪を乾かすことすらせずにベッドに入り布団を被った。冬ではないというのに寒気と全身の震えが収まらず、自分の体を抱きしめるように蹲る。気持ちを落ち着かせようと大きく呼吸するように努めても、一時間に一度の頻度で発作のように号泣してしまった。更に日付が変わり日曜日の夜になると、流石に空腹に耐えられず寮の食堂に行こうとふらつく足でベッドから降りた。しかしドアノブに触れた瞬間、廊下を歩く生徒たちの気配を感じて急に恐ろしくなり、足と頭を抱えて座り込む。部屋の外に出て、もし城田たちに遭遇してしまったら?想像しただけで歯がガチガチと音を立て、とてもではないが廊下に出れるような状況ではなかった。
空腹のまま意識を失った篠原が目覚めると翌日、月曜日の朝になっており、意を決し身支度をして制服に着替え、震える体を抑えつけるように手で腕を強く掴むと部屋を出た。満身創痍で食堂に入り久々の食事を摂ると、体も気持ちも少し落ち着いてきた。

「行くしかない、か……」

寮から学校へ向かう途中、車のエンジン音や鳥のさえずり、通勤通学する人たちの声を聞きながら歩を進めると、いつも通りの日常に帰ってこれたような気がした。
校門を通り敷地内に入ると、篠原の背中にコツン、と何かが当たり、背後から明るい声がかけられる。

「はよ、シノ」
「春樹……」

振り返ると鞄の角を突き出した、生徒会副会長の澤井春樹が悪戯っぽく微笑んでいた。

「土曜日に送ったLINE返ってこなかったから心配してたんだけど」
「え?あ、悪い、見てなかった…」
「や、まぁ全然急ぎの用件じゃないから平気だけどさ」

慌てて鞄に入れっぱなしになっていたスマートフォンを取り出すと、通知に春樹からの『来週の水曜のミーティング、教室どこだっけ?』というメッセージが表示されていた。

「あー…、どこだったかな、後で確認する」
「サンキュー、俺スケジュールのレジュメは貰えてないからいちいちシノに確認してばっかでごめんな」
「いや、大丈夫。顧問の先生も副会長用にもう一部くらい作ってくれればいいのにな…」

篠原と春樹が知り合ったのは入学式の初日だった。首席次席の挨拶をすることになっていた二人は、控え室ですっかり意気投合し、クラスが同じだったことで更に親密になった。絵に描いたような真面目で秀才タイプの篠原と、人懐っこく一見勉強ができそうには見えない春樹は、正反対のタイプではあったがやはり勉学に熱心なところは共通している。いつも成績は僅差で篠原がトップを獲ってはいるものの、切磋琢磨していける存在として、そして親友としてお互いを大切に思っていた。周りからもこの二人は揃って一目置かれる存在だった。


下足箱で靴を履き替えていると、背後から大きな笑い声がして篠原は息が止まった。恐る恐る振り向くと当たり前ではあるが学年の違う城田がそこにいるわけはなく、隣のクラスの生徒二人がふざけあってギャハハ、と騒いでいるだけだった。その姿を自分の目で確認してもなお、篠原の動揺は収まらない。むしろその下品な笑い方が悪夢の夜のことを思い出させたのか、動悸が止まらずひどい吐き気を催した。みるみる顔色が悪くなる篠原の顔を覗き込んだ春樹が慌てて声をかける。


「おい、どした?大丈夫かよ」
「だ、だいじょうぶ……」
「いや、顔真っ青だって。保健室行こう」


春樹が背中をなだめるようにさすった瞬間、篠原の体が大きく跳ね反射的にその腕を振り払った。面食らったような春樹の顔を見て、すぐに我に返る。


「あ……っ、」
「……シノ?」
「ご、めん…、保健室、一人で行けるから……先教室行っててくれ」


その場から逃げるように立ち去った篠原は、ああ言ってしまった以上とりあえず保健室に向かった。まだホームルームすら始まらないこの時間に保健室を利用するような生徒はいないだろう。少しでも人のいないところに避難して気持ちを落ち着けようと保健室のドアを開いた。


「あれ、篠原?珍しいな〜、どうしたの」
「あの、少し気分悪くて…休んでもいいですか」
「いいよいいよ、顔真っ青だな。そっちのソファ座んな」


案の定保健室には机に書類を広げていた保険医の谷口しかいなかった。診察用の丸椅子では無く、奥にあるソファに通された篠原は、素直に腰を下ろす。
谷口は30前半の男性教諭で、今年の春赴任してきたばかりだったが、優しい印象の少し垂れた目元や柔らかい話し口調で既に生徒からそれなりの人気と信頼があった。体調管理にも気をつけている篠原は保健室を利用したことがほとんどなく、健康診断などで顔を合わせて少し話をする程度だった。しかし谷口側からすればやはり生徒会長の篠原は人前に立つ機会が多く、接触が少なくともすぐに顔と名前は一致した。


「勉強熱心なのはいいけど、あんまり無理しすぎないようにしろよ〜」
「はい……」
「ほら、紅茶飲みな。貧血ならあったかい飲み物でちょっと楽になるから」


湯気の立つマグカップを受け取った篠原は何度か息を吹きかけ、紅茶に口をつけた。砂糖の多目に入ったソレはここ数日の栄養不足気味の体に優しく沁みていく。半分ほど飲んだ頃には篠原も大分落ち着きを取り戻していた。


「ありがとうございます……あの、もう大丈夫そうなので戻ります」
「そう?もう少しゆっくりしていったら?」
「でも、そろそろ授業始まるので…すみません、失礼します」
「真面目だねぇ」


ソファから立ち上がり空になったマグカップを谷口に渡した篠原は、次いで聞こえた言葉に耳を疑った。





「レイプされても学校にはくるんだ?」





一瞬、時が止まったかのように保健室を静寂が支配した。全身の血液が一気にざわつく。授業開始を知らせるベルが鳴る音が、ひどく遠く聞こえた。


「な、に……?え……っ、?」
「これさぁ、送られてきたんだよな」


谷口が白衣のポケットから取り出したスマホを操作して篠原に見せてきたのは、城田達に押さえつけられ凌辱されている自分の姿。真っ赤に蕩けた顔に誰のものかもわからない大量の白濁を纏い、正常位で後ろの穴にズップリとペニスを突っ込まれた状態の自分が写るその写真に、身に覚えがないはずがなかった。頭を鈍器で殴られたような衝撃に、篠原の目は大きく見開かれ、眉間には深い皺が刻まれる。落ち着いたはずの顔色もみるみるうちに悪くなっていた。



「…ぁ…っ、え、……な、なん……っ、…」
「ご丁寧に動画もあるんだよ」


思考が追いつかず言葉がうまく喋れない篠原に追い打ちをかけるように、谷口はまた何か別のファイルを開く。


『あっ、やぁあ…っ、あん、あっ、ぅ、いや、やら、ああ゛ぁっ』
『あーもう完全にイッちゃってんなこれ』
『おーい、中出すぞー』
『やっ!!あ、いぁ、や、やら、やらあぁッ!!!』
『やらぁ〜〜だってさ、ウケる〜』


「すごいな〜コレ。スマホの割にはうまく撮れてる」



篠原の体は既にこれ以上にない程震えていた。


「と、とめ、とめてくださ、あ、…あ、……っ、いやっ、やぁあああああああッ!!!!!」


谷口に詰めよるように腕を掴んでも一向に再生を止めようとしない様子に、遂に篠原の精神が限界を迎えその場に崩れ落ちた。耳を両手で塞ぎ頭をブンブンと左右に振る。
泣き声混じりの喘ぎ声、茶化すような声、下品な笑い、ぐちゃぐちゃという水音。一瞬目の前が真っ暗になり、すぐに戻った明るい視界に飛び込んできたのは保健室ではなくあの日の夜、あの部屋、そしてあの男たちだった。


「ひッ!!やだ、やだぁああっ!!」
「シー、うるさいって。」
「っ!!!いやぁああっ、さわ、さわらなぃでッ、やだ、やだ、やだ、ぃや、もうやだッ、ごめんなさい、ごめんなさいぃぃ、も、終わって、終わってぇッ!!!いたぃ、いたぃいいいい…っ!!!たすけて、やだ、やだぁああっ」
「おーい大丈夫か?フラバっちゃった?」


スマホを仕舞いしゃがんだ谷口が篠原の腕を掴むと、箍が外れたかのように泣き喚き拒絶の言葉を撒き散らかして暴れ出す。授業が始まり廊下に人がいないとは言え放っておけば人が集まってくるようなボリュームの声でパニックを起こしている可哀想な生徒の体を、谷口は強く抱きしめた。


「大丈夫、大丈夫だぞー。ほら、あいつらもういないから。な、一回落ち着こうか。ゆっくり息して」
「いやぁああっ、やだぁあ、いたいのやだっ、もうやだぁぁ!もうやだぁ…っ」
「うん、大丈夫だから。もう終わったよ。先生ついてるから大丈夫。」
「いや……や、やだ……、…あ…」


幼子のように拙い言葉で喚く篠原の涙を肩で受け止めながら優しく声をかけ背中を摩り続けると、徐々に悲鳴と呼吸は弱々しく落ち着いていった。





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